第71話 出口の所有者
数日後。
街の空気は、二つに割れていた。
ひとつは――神祀庁の“完全な安定”。
もうひとつは――リョウたちの“通る軽さ”。
ユナがぽつりと言う。
「……違うね」
リョウが頷く。
「ああ」
サクヤが続ける。
「前者は止まっている」
「後者は流れている」
広場。
人が集まり始めている。
以前よりも、多い。
「こっちの方が楽だ」
「でも、自分でやってる感じがある」
小さな声が、広がっていく。
リョウが腕を組む。
「……いい流れだ」
だが。
サクヤが言う。
「来るぞ」
その瞬間。
空気が、変わる。
スッ――
見えない何かが、接続される感覚。
ユナが震える。
「なにこれ……」
リョウが舌打ちする。
「やられた」
街の“通り道”。
その一部が――
神祀庁のシステムに接続された。
神祀庁の中枢。
男が静かに言う。
「“出口”の管理を開始します」
モニターには、リョウたちの作った流路。
それが一つずつ、取り込まれていく。
「流れは、制御されるべきです」
広場。
さっきまで自然に抜けていた流れが、
どこか“引っ張られる”。
リョウが目を閉じる。
感じる。
「……持ってかれてる」
サクヤが言う。
「出口を握られた」
ユナが不安そうに。
「どうなるの?」
リョウは答える。
「最終的に――」
一拍。
「また中心に戻る」
つまり。
“通してるつもりで、集められてる”
リョウが苦笑する。
「うまいことやるな……」
サクヤが言う。
「対策は」
リョウは即答しない。
考える。
そして。
「切る」
サクヤが頷く。
「接続をか」
リョウが言う。
「でも、それだけじゃダメだ」
ユナが聞く。
「なんで?」
リョウは空を見る。
「また繋がれる」
沈黙。
そして。
リョウが言う。
「なら」
目が変わる。
「“持たせない”」
サクヤが反応する。
「……所有させない構造」
リョウがニヤッとする。
「そう」
ユナが首をかしげる。
「どういうこと?」
リョウは地面に線を描く。
複雑に、絡む線。
「一本道だからダメなんだ」
「だから掴まれる」
サクヤが言う。
「網状にするか」
リョウが頷く。
「それもある」
そして。
「もう一つ」
ユナを見る。
「“誰でも作れる”ようにする」
ユナが目を見開く。
「えっ」
リョウは続ける。
「特別な場所だけじゃダメだ」
「誰でも、どこでも、少しずつ流せる」
サクヤが理解する。
「分散された出口」
リョウが言う。
「そう」
“出口の民主化”
神祀庁は
中央で管理する
リョウたちは
全員に持たせる
ユナが小さく笑う。
「なんか……むずかしいけど」
「いいね」
リョウも笑う。
「だろ?」
その時。
一人の少女が近づいてくる。
「ねえ」
三人を見る。
「これ……どうやるの?」
リョウが止まる。
サクヤも見る。
ユナが微笑む。
「いっしょにやろ?」
ここで、流れが変わる。
“教える”フェーズへ。
リョウがしゃがむ。
「いいか」
地面に、小さな印を描く。
「こうやって――」
簡単な形。
誰でもできる。
「ここに立って」
「ちょっとだけ、出して」
少女は戸惑いながらも、やる。
すると――
すうっと。
軽くなる。
少女の目が輝く。
「……できた!」
その瞬間。
リョウたちは理解する。
これが答えだと。
遠くで。
神祀庁の男がそれを見る。
「……なるほど」
少しだけ、表情が変わる。
初めての“想定外”。
「全体化、ですか」
管理できない領域。
制御できない数。
男が静かに言う。
「ならば――」
目が冷たくなる。
「制限しましょう」
次の一手が来る。
“使えなくする”か、
“危険に見せる”か。
戦いは次へ。




