第70話 外へ、ではなく、通す
拠点。
重い沈黙。
誰もすぐには口を開かない。
リョウが壁にもたれて、ぽつりと言う。
「……あれ、壊したら終わるな」
サクヤが短く答える。
「ああ」
ユナは膝を抱えている。
「でも、あのままも……」
言い切れない。
リョウが頷く。
「分かってる」
少し間。
そして、床に指で線を引く。
円。
「今のあれは、ここ」
一点。
「全部、ここに集めてる」
サクヤが続ける。
「出口がない」
リョウが線を足す。
円の外に、もう一つの円。
「じゃあ、こうしたらどうだ」
ユナが顔を上げる。
「なに?」
リョウは言う。
「“外に出す”んじゃなくて――」
一拍。
「“通す”」
サクヤの目が細くなる。
「……通過させるか」
リョウが頷く。
「そう」
ユナが首をかしげる。
「でも、どこに?」
リョウは少し考えて。
「どこでもいい、はダメだな」
サクヤが言う。
「条件がいる」
リョウは指を折る。
「壊れない」
「溜まらない」
「誰のものにもならない」
ユナがぽつりと。
「……世界?」
リョウが止まる。
サクヤも見る。
ユナは少し戸惑いながら。
「空とか、風とか……」
「そういうとこに、流れていく感じ」
沈黙。
リョウが、ふっと笑う。
「いいね、それ」
サクヤも小さく頷く。
「自然層か」
リョウが立ち上がる。
「やること決まったな」
ユナが聞く。
「なにするの?」
リョウは答える。
「道、作る」
翌日。
場所は、あの墓地。
“通せた”場所。
リョウが立つ。
「ここ、穴開きかけてる」
サクヤが言う。
「境界が薄い」
ユナが少し不安そうに。
「また、あれ出ない?」
リョウが笑う。
「今回は出さねえよ」
準備が始まる。
リョウが地面に円を描く。
だが今回は違う。
閉じない。
外へ向かって、開いた形。
サクヤが周囲を整える。
「流れが乱れる」
リョウが答える。
「乱していい」
「その方が抜ける」
ユナが中央に立つ。
深呼吸。
リョウが言う。
「少しでいい」
ユナが頷く。
「うん」
じわり、と。
流す。
感情。
負荷。
小さな災気。
それが場に広がる。
リョウが手をかざす。
ドクン。
干渉。
今度は――
“押さえない”
“分けない”
“導く”
流れを、一方向に。
外へ。
だが、ただの外じゃない。
空気の“薄い層”。
境界の向こう。
サクヤが低く言う。
「……抜けている」
ユナが目を見開く。
「消えてる……?」
リョウが首を振る。
「違う」
「薄まってる」
流れは止まらない。
溜まらない。
ただ――
通り過ぎていく。
その感覚。
ユナが小さく笑う。
「……軽い」
リョウも笑う。
「成功だな」
サクヤが頷く。
「ああ」
その時。
空気が、わずかに震える。
リョウが顔を上げる。
「……見てるな」
遠く。
神祀庁の監視。
もうバレている。
サクヤが言う。
「時間がない」
リョウは頷く。
「だな」
数時間後。
街のあちこちに、小さな“通り道”が作られる。
完全じゃない。
でも、確実に機能する。
人々が気づき始める。
「あれ……楽だ」
「でも、あそこみたいに怖くない」
違いが、広がる。
神祀庁。
男が報告を受ける。
「……排出ではなく、通過」
モニターを見る。
わずかに、中心の負荷が減っている。
男が呟く。
「なるほど」
少し考える。
そして。
「ならば――」
目を細める。
「その“出口”を管理しましょう」
リョウたちのやり方。
それは――
奪われる。
だが同時に。
広がり始めている。
リョウが空を見上げる。
「……間に合うかね」
サクヤが答える。
「間に合わせる」
ユナも言う。
「うん」
戦いは次へ。
“流す”でも、“溜める”でもない。
“通す世界”を巡る争いへ。




