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第69話 中心にあるもの

夜。


神祀庁中枢――


街のど真ん中にあるはずなのに、音がない。


静かすぎる。


リョウが足を止める。


「……なんだこれ」


サクヤも周囲を見る。


「揺れがない」


ユナが小さく言う。


「安心する……」


その一言。


リョウの顔が曇る。


「それがヤバい」


内部へ。


扉は、開いている。


警備もない。


まるで――


“入っていい”と言われているような空気。


サクヤが言う。


「罠か」


リョウは首を振る。


「いや」


一歩踏み込む。


「見せる気だ」


最深部。


広い空間。


中央に、それはあった。


人の形。


座っている。


目を閉じている。


まるで、眠っているように。


ユナが息を呑む。


「……きれい」


リョウは何も言えない。


サクヤも、動かない。


圧がない。


恐怖もない。


ただ――


“完全に整っている”


その存在の周囲。


ゆっくりと、流れが巡っている。


街中から集まった災気。


それが、


濁らず、


暴れず、


ただ静かに――


“そこに収まっている”


声がする。


後ろから。


「いかがですか」


振り向く。


神祀庁の男。


穏やかな笑み。


「これが、我々の答えです」


リョウが低く言う。


「……これが」


男は頷く。


「ええ」


「暴走も、偏りも、ありません」


サクヤが問う。


「意思はあるのか」


男は少し考えて。


「不要です」


即答。


「安定に、意思は必要ありません」


ユナが震える。


「でも……」


その存在を見る。


「生きてる、みたい」


男は微笑む。


「機能しています」


言い換えただけ。


リョウがゆっくり近づく。


一歩。


また一歩。


何も起きない。


攻撃も、拒絶もない。


ただ、そこにある。


リョウが手を伸ばす。


その瞬間――


ドクン。


繋がる。


一瞬で、理解する。


「……全部、ここに来てる」


男が言う。


「最適に処理されています」


リョウの顔が歪む。


「処理って……」


その中に。


見える。


人の感情。


苦しみ。


諦め。


“楽になりたい”という願い。


全部が――


ここにある。


でも。


叫んでいない。


暴れていない。


ただ、静かに沈んでいる。


リョウが呟く。


「……逃がしてない」


男は首を傾げる。


「必要ありません」


リョウが振り返る。


「違う」


はっきり言う。


「閉じ込めてるだけだ」


空気が変わる。


男の笑みが、わずかに消える。


サクヤが前に出る。


「壊すか」


リョウは迷う。


今なら、できる。


だが――


ユナが言う。


「ねえ……」


二人を見る。


「これ、壊したら」


少し震えながら。


「みんな、どうなるの」


沈黙。


答えは分かっている。


一気に、全部が解放される


街は――


持たない。


男が静かに言う。


「選択です」


リョウを見つめる。


「安定か」


「混沌か」


リョウの拳が震える。


まただ。


この選択。


だが、今回は重さが違う。


規模が違う。


世界そのものだ。


その時。


“それ”の目が、わずかに開く。


静かな瞳。


感情は、ない。


だが――


リョウを見る。


一瞬。


何かが、伝わる。


言葉じゃない。


でも、確かに。


「このままでいいのか」


リョウの目が見開かれる。


「……お前」


男が言う。


「反応しましたか」


少し興味深そうに。


「やはり、完全ではない」


サクヤが言う。


「どうする」


リョウは、目を閉じる。


考える。


速さか。


遅さか。


管理か。


自由か。


そして――


“この静けさ”を、認めるか。


ゆっくりと、目を開く。


「……壊さねえ」


男が微笑む。


「賢明です」


だが。


リョウは続ける。


「でも」


一歩下がる。


「これで終わりとも思わねえ」


サクヤが頷く。


「ああ」


ユナも、小さく頷く。


リョウが最後に、その存在を見る。


静かで。


美しくて。


でも――


どこか、歪んでいる。


「……待ってろ」


小さく呟く。


「もっとマシな形、持ってくる」


その場を離れる三人。


背後で。


“それ”は、再び目を閉じる。


だが。


ほんのわずかに。


流れが、揺れた。


神祀庁の男が呟く。


「さて」


「対抗策を見せてもらいましょう」


戦いは次の段階へ。


“完成された神”に対して、


“未完成のまま超える”方法を探す戦いへ。

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