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第68話 奪われる前提

翌日。


街の空気が、微妙に変わっていた。


リョウが眉をひそめる。


「……なんか、静かすぎねえか」


サクヤも周囲を見る。


「ああ」


人はいる。


日常もある。


だが――


“揺れ”が少ない。


ユナが小さく言う。


「昨日より、らくかも」


リョウの顔が曇る。


「それが気持ち悪い」


自然じゃない。


楽になるには、理由がある。


そしてその理由が――


見えない。


広場に向かう。


そこには、数人の人が集まっている。


だが、様子がおかしい。


全員、落ち着いている。


安定しすぎている。


リョウが一人に声をかける。


「調子どうだ」


男は穏やかに笑う。


「問題ない」


リョウはさらに聞く。


「最近、何かしたか」


男はあっさり答える。


「協力所に行った」


その一言。


リョウの目が細くなる。


場の“流れ”を感じる。


ドクン。


違和感。


昨日のとは違う。


自然じゃない。


リョウが低く言う。


「……循環してる」


ユナが驚く。


「えっ」


サクヤも気づく。


「人工的だ」


つまり――


神祀庁がやった。


昨日の“答え”を。


もう取り込んだ。


リョウが笑う。


「マジかよ……」


早すぎる。


だが、あり得る。


あいつらは“速さ”で勝負している。


その時。


スピーカーの音。


街中に流れる。


『ご案内いたします』


あの男の声。


『新たに“循環安定システム”を導入しました』


リョウが舌打ちする。


「ネーミングセンス……」


ユナが不安そうに言う。


「これって……」


サクヤが答える。


「昨日のだ」


完全に、なぞられている。


だが――


違う。


決定的に。


リョウが目を閉じる。


流れを読む。


そして。


「……強制されてる」


ユナが震える。


「え……」


リョウは続ける。


「自分で流してない」


「“流されてる”」


サクヤが言う。


「制御されているな」


場の人間たち。


確かに楽そうだ。


だが。


どこか“空っぽ”。


リョウが呟く。


「……意思がねえ」


昨日のあれは、


自分で選んで

自分で受けて

自分で流した


でもこれは違う。


システムが全部やってる


その時。


また声。


『これにより、個人の負担は完全に最適化されます』


『選択の必要はありません』


ユナが小さく言う。


「選ばなくていい……」


魅力的な言葉。


リョウが即座に言う。


「危ねえぞ、それ」


ユナが見る。


リョウは言う。


「選ばないってことはな」


「誰かが選んでるってことだ」


サクヤが一歩前に出る。


「どうする」


リョウは迷わない。


「確認する」


視線を上げる。


「どこに溜まってるか」


サクヤが頷く。


「ああ」


場所は、すぐに分かった。


流れを辿る。


一点に収束している。


街の中心。


神祀庁の中枢施設。


リョウが笑う。


「……分かりやすい」


サクヤが言う。


「集中管理」


ユナが不安そうに言う。


「それって……」


リョウが答える。


「溜まるぞ」


確実に。


今はいい。


薄く分散されているから。


だが――


全体を制御している以上、


最終的な“受け皿”が必要になる


そしてそれが、


一箇所にある


サクヤが刀に手をかける。


「行くか」


リョウは少し笑う。


「またデカいの来そうだな」


ユナが小さく言う。


「でも……」


二人を見る。


「止めるんだよね」


リョウは頷く。


「当たり前だ」


サクヤも言う。


「ああ」


その頃。


神祀庁の中枢。


あの男が、静かにモニターを見ている。


街全体の流れ。


完全に掌握されている。


「……美しい」


均一な分散。


無駄のない循環。


だが――


その中心。


わずかに、濁り始めている。


男が呟く。


「許容範囲です」


まだ問題ない。


まだ。


だがその“中心”は、


ゆっくりと。


確実に。


“何か”になろうとしていた。


戦いは次へ。


分散か、集中か。


自由か、管理か。


そして――


“完成された循環”の歪みが、牙を剥く。

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