第66話 速さの代償
三日後。
街に変化が出る。
神祀庁の「協力所」。
それが――増えていた。
リョウが舌打ちする。
「……展開早すぎだろ」
サクヤが言う。
「速さで押してくる」
実際。
街のあちこちに、同じ設備。
同じ椅子。
同じ“楽になる仕組み”。
そして――
人が、集まっている。
ユナが不安そうに言う。
「いっぱい、いる……」
リョウは目を細める。
「そりゃそうだ」
簡単だから。
考えなくていいから。
選ばなくていいから。
サクヤが言う。
「対して、こちらは」
振り返る。
リョウたちの“場”。
人はいる。
だが、数は少ない。
そして――疲れている。
リョウが苦笑する。
「まあ、そうなるよな」
自分で決める。
自分で調整する。
楽じゃない。
その時。
一人の男が、リョウに詰め寄る。
「なあ!」
苛立った声。
「なんでこっちはこんな面倒なんだよ!」
周囲もざわつく。
「向こう行けば、すぐ楽になるのに……」
「なんで我慢しなきゃいけないんだ」
リョウは黙って聞く。
否定しない。
できない。
男は続ける。
「結局さ!」
「そっちの方が正しいんじゃねえのか!?」
重い言葉。
場が揺れる。
ユナが不安そうにリョウを見る。
リョウはゆっくり答える。
「正しいかどうかは知らねえ」
男が苛立つ。
「は?」
リョウは続ける。
「でもな」
少し間を置いて。
「楽な方が、いいとは限らねえ」
男が言い返す。
「綺麗事だろ!」
リョウは頷く。
「そうだな」
あっさり認める。
「綺麗事だ」
その上で。
「でも」
「その綺麗事がないと」
静かに言う。
「人、簡単に壊れるぞ」
男は言葉を失う。
リョウは続ける。
「向こうのやつ」
協力所の方向を見る。
「あれ、確かに楽だ」
「でもな」
拳を握る。
「どこに溜まってるか、見えねえだろ」
サクヤが付け加える。
「見えない偏りは、制御できない」
空気が静まる。
誰も反論できない。
でも――
納得もしていない。
それが現実。
その日の夜。
神祀庁の施設。
男がデータを見ている。
「……順調です」
職員が報告する。
「利用者、増加中」
「暴走件数、減少」
男は頷く。
「当然です」
グラフには、安定した数値。
一見、成功。
だが――
男は別のデータを見る。
「……偏差が出ていますね」
一部の数値だけが、わずかに高い。
職員が言う。
「誤差の範囲です」
男は静かに言う。
「いいえ」
目を細める。
「“溜まり”です」
だが。
表には出ない。
見えない。
だから――
「問題ありません」
そう結論づける。
一方。
リョウたちの拠点。
空気は重い。
リョウが床に寝転ぶ。
「……減ったな」
サクヤが答える。
「ああ」
人が。
ユナが小さく言う。
「みんな、向こう行っちゃうね」
リョウは目を閉じる。
「だろうな」
責めない。
それが普通だ。
サクヤが言う。
「どうする」
リョウは少し考える。
そして。
「変えねえ」
サクヤが見る。
リョウは続ける。
「やり方は、このまま」
ユナが聞く。
「いいの?」
リョウは笑う。
「いい」
そして。
「ただし」
起き上がる。
「もう一個、足す」
サクヤが言う。
「何を」
リョウは答える。
「“逃がす場所”」
ユナが首をかしげる。
「にがす?」
リョウは頷く。
「人だけじゃ足りねえ」
空を見る。
「外に出す」
サクヤの目がわずかに動く。
「……排出か」
リョウが笑う。
「そう」
ここで、発想が次に進む。
分散だけじゃなく、“外部への放出”
ユナが不安そうに言う。
「でも、それって……どこに?」
リョウは少しだけ考えて。
そして言う。
「まだ決めてねえ」
正直に。
でも。
「探す」
サクヤが頷く。
「ああ」
その時。
遠くで――
ドン……
低い音。
リョウが顔を上げる。
「……来たな」
サクヤも動く。
「偏りだ」
見えないはずの“溜まり”。
それが、ついに――
表に出始める。
神祀庁の“速さ”の代償が。
次の戦いは。
“見えない爆発”との対峙へ。




