第60話 選別者
夜の街を、サクヤは駆ける。
迷いはない。
リョウが辿った“流れ”。
それを、そのまま追う。
見えないはずの道が、はっきりと分かる。
細く、しかし確実に続く線。
「……ここか」
辿り着いたのは、街外れの廃施設。
かつての祠跡地。
今は、何もないはずの場所。
だが――
中から、脈動。
ドクン。
ドクン。
サクヤは扉を蹴り開ける。
バン!!
中は暗い。
だが、中央に“装置”。
小型の塔。
いや――
“接続機”。
そこに立つ男。
白衣。
神祀庁の人間。
振り返る。
「……来ましたか」
落ち着いた声。
逃げる気はない。
サクヤは言う。
「切る」
男は苦笑する。
「話はしないのですか」
サクヤは一歩踏み出す。
「必要ない」
男は肩をすくめる。
「合理的ですね」
だが。
その目は冷たい。
「では、こちらも」
装置が光る。
ドクン!!
空気が変わる。
サクヤが感じる。
「……繋がっているな」
男は頷く。
「ええ」
「選別中です」
その言葉に、わずかな誇り。
サクヤの目が細くなる。
「何を基準に」
男は答える。
「耐性です」
「どれだけ災気を受け入れ、壊れずにいられるか」
サクヤが言う。
「壊れる前提か」
男は即答する。
「当然です」
一切の迷いなし。
「壊れない人間などいない」
「だからこそ、“持つ者”を選ぶ」
サクヤの手が、刀にかかる。
「選ばせない」
男は言う。
「では、どうするのです」
「全員で抱える?」
「非効率です」
サクヤは静かに答える。
「それでいい」
男がわずかに眉を動かす。
サクヤは続ける。
「壊れるなら、全員で壊れる」
その言葉に。
男は、ほんの少しだけ言葉を失う。
だが、すぐに笑う。
「……極端だ」
サクヤは言う。
「お前もな」
次の瞬間。
踏み込む。
最短。
最速。
だが――
装置が反応。
ドクン!!
空間が歪む。
サクヤの動きが一瞬止まる。
男が言う。
「接続対象の負荷を、こちらに転送しています」
つまり。
少女に流していた災気を。
今、サクヤにぶつけている。
サクヤの体が重くなる。
「……っ」
だが。
止まらない。
さらに踏み込む。
男が目を見開く。
「……耐えるのか」
サクヤは答えない。
ただ、進む。
一歩。
また一歩。
圧が増す。
体が軋む。
それでも。
「――斬る」
ザン!!
装置の一部が裂ける。
だが、まだ動く。
男が後退する。
「やはり危険だ」
手を上げる。
装置がさらに出力を上げる。
ドクン!!!
今度は、強制的に流し込まれる。
サクヤの視界が揺れる。
一瞬。
膝が落ちる。
その隙。
男が言う。
「あなたも、適合者かもしれませんね」
サクヤの目が上がる。
「……何?」
男は続ける。
「これほど受けて、壊れない」
「興味深い」
サクヤが立ち上がる。
ゆっくりと。
だが、確実に。
「……勘違いするな」
男が眉をひそめる。
サクヤは言う。
「壊れてないんじゃない」
刀を構える。
「壊れる前に、斬るだけだ」
一気に踏み込む。
限界を越えて。
男の目が見開かれる。
「な――」
「――斬る」
ザン!!!
装置の核が、真っ二つに裂ける。
光が弾ける。
接続が、切れる。
ドォン!!
空気が抜ける。
重圧が消える。
サクヤはその場に立つ。
わずかに息が荒い。
男は、崩れた装置を見て呟く。
「……もったいない」
サクヤが言う。
「終わりだ」
男はゆっくり顔を上げる。
「いいえ」
その目は、まだ死んでいない。
「これは一部に過ぎません」
サクヤは静かに言う。
「全部斬る」
男は笑う。
「期待しています」
そのまま、闇の奥へ消える。
追わない。
優先は一つ。
サクヤは振り返る。
「……繋がりは切れた」
その頃。
リョウは、少女を支えていた。
「……っ!」
急に軽くなる。
流れが、止まる。
リョウが息を吐く。
「……サクヤか」
少女の靄が、ゆっくりと消えていく。
呼吸が安定する。
目が、穏やかになる。
リョウが笑う。
「助かったな」
少女が小さく頷く。
「……うん」
完全じゃない。
だが。
壊れる流れは止まった。
リョウは立ち上がる。
「さて」
外を見る。
夜はまだ続く。
問題も、終わらない。
だが――
一つずつ。
「潰していくか」
静かに。
だが確実に。
人が人を壊す仕組みを。
その根元から。
戦いは、さらに深く。
“選ぶ側”と“選ばれる側”の衝突へ。




