第6話 確保命令
森の奥で、黒い柱が脈打っている。
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な心臓のようだった。
サクヤはその光景を数秒見つめてから、リョウに視線を戻す。
「立てるか」
リョウは頭を押さえながら立ち上がった。
「……なんとか」
まだ頭の奥がざわついている。
さっき見た光景。
世界中の祠。
流れ込む災気。
そして中心。
巨大なシステム。
断片的だが、確かに記憶だった。
サクヤが聞く。
「中枢神ってのは何だ」
リョウは答える。
「簡単に言うと……」
言葉を探す。
「神を管理する神」
サクヤは眉をひそめた。
「そんなものがいるのか」
「いた」
リョウは言った。
「そして多分」
「それが俺」
沈黙。
サクヤは数秒考えた。
そして結論を出す。
「つまり」
「元神」
「そう」
「しかも偉い神」
「自分で言うとちょっと恥ずかしいけど」
サクヤはため息をついた。
「面倒だ」
そのやり取りを、神祀庁の男が静かに聞いていた。
やがて口を開く。
「実に興味深い」
リョウが顔をしかめる。
「さっきからそればっかりだな」
男はゆっくり歩き出した。
「だが確認できた」
「君は本物だ」
サクヤが刀を構える。
「それ以上近づくな」
男は止まらない。
むしろ楽しそうだった。
「神喰らい」
「君は知らないだろう」
森の奥の柱を指差す。
「我々はすでに研究している」
「神というシステムを」
リョウが眉をひそめる。
「研究?」
男は頷く。
「祠の神は災気処理装置」
「それは君も思い出したはずだ」
リョウは小さく頷く。
男は続けた。
「だが問題がある」
「人類は増え続けている」
「街も増えた」
「文明も拡大した」
リョウの胸が嫌な感じにざわつく。
男は静かに言う。
「つまり」
「災気が増えすぎた」
サクヤが言った。
「だから神堕ちが増えてる」
男は頷いた。
「その通り」
そして。
少し笑う。
「だが我々には解決策がある」
リョウが警戒する。
「どんな?」
男は森の奥を見た。
「巨大中枢神」
リョウの顔色が変わる。
「……何だって?」
男は淡々と説明する。
「世界中の神を統合する」
「究極の災気処理装置」
「それが完成すれば」
「この世界の平和は永遠だ」
リョウは即座に言った。
「無理だ」
男が首をかしげる。
「なぜ」
リョウは指を森の奥に向けた。
「もう失敗してる」
沈黙。
男の目が細くなる。
「説明してもらおう」
リョウは言った。
「神っていうのは」
「災気を吸い続ける存在なんだ」
「でも」
拳を握る。
「限界がある」
サクヤが小さく言う。
「神堕ち」
「そう」
リョウは頷く。
「一つの神でも限界がある」
「それを」
森の柱を見る。
「全部まとめたらどうなると思う?」
男は答えない。
リョウが言う。
「世界最大の神堕ちが生まれる」
森の空気が一瞬冷えた。
神祀庁の男は、しばらく黙っていた。
そして。
笑った。
「素晴らしい」
リョウが固まる。
「……は?」
男は言う。
「だから君が必要なんだ」
その瞬間。
彼は手を上げた。
「確保しろ」
森の奥から影が動いた。
リョウの目が見開かれる。
「まだいるの!?」
木々の間から現れたのは、十人以上の白装束。
全員、武装している。
サクヤが小さく息を吐いた。
「最初から」
「これが本命か」
男は頷く。
「当然だ」
そして静かに言った。
「中枢神は国家資産だ」
リョウが怒る。
「物みたいに言うな!」
男は冷たく答えた。
「神は道具だ」
その瞬間。
剣士たちが一斉に動いた。
サクヤはリョウの前に出る。
「下がれ」
リョウが言う。
「でも数多いぞ」
サクヤは刀を抜く。
キィン。
その音は静かだった。
だが。
空気が変わる。
神祀庁の剣士たちが一瞬だけ躊躇した。
サクヤが言う。
「問題ない」
そして。
一歩踏み出す。
「全部」
「斬る」
次の瞬間。
サクヤの姿が消えた。
ザン!!
一人目の剣士が吹き飛ぶ。
ドン!!
二人目が倒れる。
リョウが目を丸くする。
「速っ!?」
サクヤは止まらない。
森の中を白い影が走る。
剣が折れる。
人が倒れる。
数秒。
それだけだった。
気付けば。
剣士たちは全員地面に倒れていた。
リョウが呆然とする。
「……え?」
神祀庁の男が静かに言う。
「なるほど」
「噂以上だ」
サクヤは刀を血も払わずに鞘に戻す。
「終わりだ」
男は首を振った。
「いや」
そして森の奥を見る。
「ここからだ」
その瞬間。
黒い柱が大きく脈打った。
ドクン!!
地面が揺れる。
リョウの顔が青くなる。
「……まずい」
サクヤが聞く。
「何が」
リョウは震える声で言った。
「あれ」
「起きる」
森の奥。
災気の柱が裂けた。
そこから――
巨大な影が立ち上がった。
サクヤが初めて目を細める。
リョウは呟いた。
「……中枢の欠片」
神祀庁の男が微笑む。
「実験成功だ」
影がゆっくり姿を現す。
それは神だった。
だが。
今までの神とは比べものにならない。
高さ二十メートル。
身体は災気の嵐。
目は深い闇。
リョウの声が震える。
「これ」
「まだ未完成なのに……」
サクヤが刀を抜く。
キィン。
そして言った。
「問題ない」
リョウが叫ぶ。
「いや問題あるだろ!?」
サクヤは前に出る。
巨大な神を見上げて。
静かに言った。
「神なら」
「斬れる」
巨大な影が動いた。




