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第5話 触れてはいけないもの


神の拳が落ちる。


ドォォォン!!


地面が爆発した。


土と石が宙に舞う。


リョウは思わず目を閉じた。


「うわっ!!」


だが。


次の瞬間、サクヤの声が聞こえる。


「目を開けろ」


リョウが恐る恐る見る。


サクヤは神の腕のすぐ横に立っていた。


ほんの紙一重で避けている。


「……近すぎない?」


サクヤは答えない。


神の腕に触れそうな距離。


彼女は一歩踏み込んだ。


「――遅い」


刀が走る。


ザンッ!!


神の腕が切断された。


黒い霧が噴き出す。


神が低く唸る。


空気が震える。


リョウは驚いて叫んだ。


「斬れた!?」


神祀庁の男が静かに言う。


「当然だ」


「彼女は神喰らいだからな」


だが男の目は観察者の目だった。


まるで研究者が実験を見るように。


神は怒り狂ったように腕を振るう。


森の木が薙ぎ倒される。


地面が割れる。


サクヤはその中を滑るように動いた。


避ける。


斬る。


退く。


無駄がない。


だが。


神の傷はすぐに再生していく。


リョウが言う。


「さっきの神堕ちと違う!」


サクヤも気付いていた。


「……再生が早い」


神祀庁の男が答える。


「当然だ」


「それは祠の神だ」


リョウが振り向く。


「祠の……神?」


男は頷いた。


「堕ちる前の神だ」


空気が凍る。


リョウの声が震える。


「……え」


サクヤの目が細くなる。


「つまり」


男は笑った。


「まだ壊れていない神だ」


「我々が制御している」


リョウは信じられない顔をした。


「神って……」


「戦わせていいの?」


男は冷たく答えた。


「神は道具だ」


その瞬間。


サクヤが踏み込んだ。


一閃。


ズバン!!


神の胴体が斜めに裂ける。


巨大な身体がよろめく。


だが。


完全には崩れない。


神祀庁の男が小さく頷く。


「なるほど」


「やはり斬れる」


「だが――」


神の目が赤く光った。


ドクン。


空気が脈打つ。


リョウの身体が震えた。


「……やばい」


サクヤが叫ぶ。


「下がれ!」


神の身体から黒い波が広がった。


ドォォォン!!


衝撃波。


森の木々が一斉に折れる。


リョウは吹き飛ばされた。


「ぐっ!」


地面に転がる。


サクヤは踏ん張っている。


だが距離が離れた。


神がリョウを見た。


赤い目。


ゆっくりと手を伸ばす。


リョウの背筋が凍る。


「ちょっと待って」


「俺そっちの敵じゃ――」


巨大な手が迫る。


逃げ場がない。


サクヤが叫ぶ。


「触るな!」


だが。


間に合わない。


神の指が。


リョウの胸に触れた。


その瞬間。


世界が止まった。


音が消える。


風が消える。


リョウの視界が白くなる。


そして――


無数の声が聞こえた。


祈り。


悲鳴。


願い。


絶望。


何万。


何十万。


何百万。


人の感情。


それが渦のように流れ込む。


リョウは膝をついた。


「う……」


頭が割れそうだ。


そして。


見えた。


巨大な光の柱。


世界中の祠。


そこから流れ込む黒い流れ。


災気。


それが一つの場所に集まっている。


世界の中心。


巨大な存在。


それは――


神。


違う。


もっと大きい。


神を管理する神。


リョウの口から言葉が漏れた。


「……中枢」


サクヤが聞き返す。


「何だ」


リョウの目が大きく開かれる。


記憶が弾けた。


世界。


祠。


神。


災気。


そして。


自分。


リョウは震える声で言った。


「……思い出した」


神の手が離れる。


リョウは地面に崩れた。


神祀庁の男が興味深そうに言う。


「ほう」


サクヤがリョウの前に立つ。


「大丈夫か」


リョウはゆっくり顔を上げた。


その目はさっきまでと違っていた。


どこか遠くを見ている。


彼は言った。


「俺」


「神だった」


神祀庁の男の笑みが深くなる。


「やはりな」


サクヤの眉が動く。


リョウは続けた。


「祠の神じゃない」


「もっと上」


森の奥。


黒い災気の柱を指さす。


「世界の神システム」


「その管理者」


そして。


静かに言った。


「中枢神」


風が吹く。


森が揺れる。


サクヤは数秒黙っていた。


そして。


一言だけ言った。


「……面倒な奴を拾ったな」


リョウは苦笑した。


「俺もそう思う」


だが。


次の言葉で空気が変わる。


「でも」


リョウは森の奥を見る。


「もっと面倒なことが起きてる」


神祀庁の男が目を細める。


「どういう意味だ」


リョウは言った。


「神が壊れ始めてるんじゃない」


沈黙。


そして。


「もう壊れてる」


森の奥の災気の柱が。


ドクン、と脈打った。


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