第58話 人造の神
塔が、脈打つ。
ドクン――ドクン――
そのたびに、周囲の人々が顔を歪める。
リョウが舌打ちする。
「時間ねえな」
サクヤはすでに踏み込んでいた。
「壊す」
一直線。
迷いなし。
だが――
塔の表面が裂ける。
そこから伸びる“腕”。
無機質な白。
だが動きは、生き物そのもの。
振り下ろされる。
ゴォン!!
地面が砕ける。
サクヤは紙一重で回避。
そのまま斬り上げる。
「――はっ!」
ザン!!
腕が切断される。
だが。
切り口が、すぐに再生する。
リョウが叫ぶ。
「自己修復!?」
男が答える。
「当然です」
余裕の声。
「災気を利用した構造ですから」
つまり――
吸っている限り、回復する。
サクヤが言う。
「先に止める必要があるな」
リョウが頷く。
「核を叩くしかねえ」
塔の中心を見る。
濃い。
明らかに、そこに集まっている。
だが――
距離が遠い。
防御も厚い。
リョウが言う。
「道、開けられるか」
サクヤが短く。
「やる」
リョウは核を握る。
ドクン!!
干渉。
塔全体へ。
だが――
「……硬っ!!」
今までの神とは違う。
意志が薄い代わりに、構造が“固定されている”。
リョウが歯を食いしばる。
「人造って、こういうことかよ……!」
サクヤが叫ぶ。
「一瞬でいい!」
リョウが吠える。
「やってる!!」
ドクン!!!
無理やり、流れを掴む。
完全じゃない。
だが――
“遅らせる”ことはできる。
その瞬間。
サクヤが動く。
最短。
最速。
一直線。
だが。
塔が、それを許さない。
四方から腕が伸びる。
完全な迎撃。
サクヤが低く言う。
「……数が多い」
リョウが叫ぶ。
「全部相手にすんな!!」
サクヤは答えない。
代わりに。
踏み込む。
一歩、さらに深く。
腕が迫る。
避けない。
斬る。
ザン!!
一本。
さらに来る。
ザン!!
二本。
だが、追いつかない。
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!!」
その瞬間。
サクヤが、わずかに姿勢を変える。
防御を捨てる。
完全な“攻め”。
腕が直撃する。
ドォン!!
体が吹き飛ぶ。
だが――
止まらない。
踏み込み続ける。
リョウの目が見開かれる。
「……マジかよ」
血が流れる。
それでも。
サクヤは前へ。
「……届く」
一瞬。
核が見える。
リョウが叫ぶ。
「今だ!!」
サクヤが振りかぶる。
だが――
塔が、さらに吸い上げる。
ドクン!!!
周囲の人々が悲鳴を上げる。
力が増す。
サクヤの動きが、わずかに鈍る。
その一瞬。
塔の中心が、閉じる。
リョウが叫ぶ。
「閉じるな!!」
全力で干渉。
ドクン!!!!!!
限界。
だが。
こじ開ける。
ほんの数センチ。
それでいい。
サクヤが叫ぶ。
「――斬る!!」
ザン!!!
核心に、一撃。
塔が止まる。
一瞬。
完全な静止。
そして――
ヒビ。
中心から、亀裂が走る。
男の顔が変わる。
「……なに?」
リョウが笑う。
「人間なめんな」
次の瞬間。
ドォォォォォン!!!
塔が内側から崩壊する。
光が溢れる。
だが――
爆発じゃない。
崩れながら、消えていく。
吸い上げていた災気が、解放される。
リョウが叫ぶ。
「散らすぞ!!」
核で制御。
広げる。
一点に溜めない。
サクヤも動く。
斬る。
流れを断ち切る。
分散。
街全体へ。
薄く、広く。
やがて――
静寂。
塔は、完全に消えた。
残ったのは。
倒れ込む人々と。
静かな空気。
リョウがその場に座り込む。
「……はぁ……」
サクヤも刀を下ろす。
「終わりか」
リョウは苦笑する。
「いや」
空を見る。
「始まりだな、これ」
サクヤも頷く。
「ああ」
その時。
神祀庁の男が、静かに言う。
「……なるほど」
振り返る。
男は、崩れた塔の跡を見ている。
「興味深い」
リョウが睨む。
「まだやる気か」
男は笑う。
「当然です」
一歩下がる。
「次は、もっと良い形で」
そのまま、去っていく。
止める暇はない。
リョウは舌打ちする。
「キリねえな」
サクヤが言う。
「だから続ける」
リョウは立ち上がる。
ボロボロだ。
でも。
笑う。
「いいね」
拳を握る。
「何回でも壊してやるよ」
サクヤも、わずかに笑う。
「そのつもりだ」
空は変わらない。
だが。
人の世界は、確実に動いている。
押し付ける世界か。
分け合う世界か。
その境界で――
戦いは続く。




