第57話 偏りの中心
翌朝。
空気が、重い。
リョウは外に出た瞬間に顔をしかめた。
「……なんだこれ」
サクヤも同じ反応だ。
「濃いな」
昨日とは違う。
街全体に、うっすらと“澱み”が広がっている。
見えないはずのものが、なんとなく“分かる”。
リョウが呟く。
「……広がってるどころじゃねえな」
サクヤが言う。
「集まっている」
リョウが周囲を見る。
「どこに」
サクヤは、迷いなく一点を見る。
「中心だ」
街の中心部。
人が集まりやすい場所。
市場。
広場。
その奥――
神祀庁が昨日、演説していた場所。
リョウが低く言う。
「……あいつら、なんかやってるな」
サクヤは即答。
「ああ」
歩く。
だが、進むほどに。
空気が重くなる。
息苦しい。
リョウが苦笑する。
「これ、長時間いたら普通に壊れるぞ」
サクヤは言う。
「だから集めている」
リョウが顔をしかめる。
「……最悪だな」
意図的に。
災気を。
一点に。
中心広場。
そこにあったのは――
塔。
昨日はなかったもの。
白い柱のような構造物。
だが。
よく見ると、脈打っている。
生きているように。
リョウの核が反応する。
ドクン!!
「……これ」
サクヤが言う。
「装置だな」
塔の周囲には、人がいる。
座り込んでいる者。
立ち尽くす者。
どれも――表情が薄い。
リョウが目を細める。
「……吸われてる」
サクヤが一歩前に出る。
「止める」
リョウも頷く。
「当然だな」
だが――
その時。
声が響く。
「やはり来ましたか」
振り向く。
神祀庁の男。
昨日の男だ。
余裕の表情。
「どうです?」
塔を示す。
「これが、我々の答えです」
リョウが吐き捨てる。
「人から吸ってるだけじゃねえか」
男は否定しない。
「ええ」
あっさりと。
「ですが、“分散”されています」
リョウが眉をひそめる。
「……何?」
男は説明する。
「一人に押し付けるのではない」
「多数から、少しずつ」
「限界に達する前に、回収し、処理する」
リョウが気づく。
「……さっきのやり方」
サクヤも言う。
「だが、違う」
男は微笑む。
「効率が違う」
塔が脈打つ。
ドクン。
人々から、微量の災気が吸い上げられる。
それが塔に集まり――
圧縮される。
リョウの顔が歪む。
「……で、それどうすんだ」
男は静かに言う。
「貯める」
その一言。
リョウが固まる。
「は?」
男は続ける。
「ある程度溜まったら、まとめて処理する」
サクヤが言う。
「どこで」
男は答える。
「隔離領域で」
つまり――
見えない場所で、爆発させる。
リョウが笑う。
「……結局、押し付けてんじゃねえか」
男は首を振る。
「違う」
「管理している」
リョウは一歩踏み出す。
「同じだろ」
男は冷静だ。
「違います」
「誰が、いつ、どれだけ背負うか」
「それを決めている」
「それが、“秩序”です」
沈黙。
正論に聞こえる。
だが――
リョウは首を振る。
「それ、人間が耐えられる量じゃなくなったらどうすんだ」
男は少しだけ間を置く。
そして。
「その時は、調整する」
リョウが睨む。
「誰を?」
男は微笑む。
「状況に応じて」
つまり。
切り捨てる。
サクヤが刀に手をかける。
「……やめろ」
男は肩をすくめる。
「なぜです?」
「これが最も現実的な方法だ」
「あなた方のような“理想論”では、世界は回らない」
リョウが言う。
「回す気ねえよ」
男が目を細める。
リョウは続ける。
「回すんじゃなくて」
塔を見る。
苦しそうな人々を見る。
「生きるんだよ」
短い沈黙。
そして――
サクヤが言う。
「壊す」
男がため息をつく。
「やはり、そうなりますか」
兵が前に出る。
だが。
それだけじゃない。
塔が、反応する。
ドクン!!
一気に災気を吸い上げる。
周囲の人々が苦しむ。
リョウが叫ぶ。
「やめろ!!」
男は冷静に言う。
「防衛機構です」
塔の表面が変形する。
腕のようなものが伸びる。
まるで――
巨大な神。
だが。
これは人が作ったもの。
サクヤが構える。
「来るぞ」
リョウが笑う。
「ほんと好きだな、人間って」
自分で問題作って。
自分でさらに悪化させる。
でも――
だからこそ。
「ぶっ壊す意味がある」
核が光る。
刀が構えられる。
人工の“神”。
それとの戦いが、始まる。




