第56話 分け合うということ
音のした方へ駆ける。
夜の街は暗い。
灯りはあるが、どこか不安定だ。
人の気配も、さっきより少ない。
リョウが呟く。
「……嫌な静けさだな」
サクヤは前を見たまま。
「広がってる」
リョウが眉をひそめる。
「さっきのと同じか?」
サクヤは首を振る。
「違う」
一歩、速度を上げる。
「一つじゃない」
リョウの顔が変わる。
「……マジかよ」
現場に着く。
そこは、細い路地だった。
だが――
一人じゃない。
三人。
それぞれが、苦しそうにうずくまっている。
体から、黒い靄。
さっきの男より、薄い。
だが――
数が多い。
リョウが低く言う。
「分散型か……?」
サクヤが周囲を見る。
「連鎖だな」
一人の影響が、周りに波及している。
感情。
空気。
共鳴。
リョウが舌打ちする。
「最悪のパターンだな」
一人なら、まだいい。
だが、複数。
しかも互いに影響し合う。
止めないと、広がる。
リョウが言う。
「俺が一人ずつ――」
サクヤが遮る。
「間に合わない」
その通りだ。
一人処理している間に、他が悪化する。
リョウが歯を食いしばる。
「じゃあどうすんだよ」
サクヤは短く言う。
「分ける」
リョウが見る。
「は?」
サクヤは続ける。
「抱えてる量を、均す」
リョウの目が開く。
「……そんなことできんのか」
サクヤはリョウを見る。
「お前ならできる」
リョウは一瞬、黙る。
理屈は分かる。
一人に集中してるから暴走する。
なら――
全員で分ければいい。
だが。
「それ、全員苦しくなるぞ」
サクヤは頷く。
「ああ」
リョウが言う。
「それでいいのか」
サクヤは答える。
「それが現実だ」
重い言葉。
だが。
逃げていない。
リョウは小さく笑う。
「……ほんと容赦ねえな」
でも。
嫌いじゃない。
リョウは前に出る。
「やる」
核を握る。
ドクン。
三人を見る。
それぞれの流れ。
絡み合っている。
それを――
解く。
「……行くぞ」
一気に干渉。
三人同時。
今までで一番、難しい。
流れが暴れる。
拒絶。
抵抗。
リョウが叫ぶ。
「……暴れるな!!」
無理やり抑え込む。
そして――
少しずつ。
流す。
一人に偏っていたものを。
三人へ。
均等に。
さらに――
自分にも。
リョウの顔が歪む。
「……っ!!」
重い。
一気に来る。
だが。
止めない。
サクヤが動く。
三人の間に入り。
一人ずつ、軽く触れる。
「落ち着け」
短い声。
だが。
なぜか、効く。
呼吸が整う。
リョウの干渉が安定する。
少しずつ。
少しずつ。
靄が薄くなる。
そして――
静まる。
三人が、その場に倒れ込む。
意識はある。
だが、疲弊している。
リョウも膝をつく。
「……はぁ……」
サクヤが見る。
「どうだ」
リョウは笑う。
「……全員、しんどい」
サクヤは頷く。
「それでいい」
三人がゆっくりと起き上がる。
顔には疲れ。
だが――
さっきのような暴走はない。
一人が言う。
「……なんでだ」
別の一人が言う。
「さっきより……楽だ」
三人とも。
少しずつ。
落ち着いている。
リョウが言う。
「一人で抱えんな」
三人が見る。
リョウは続ける。
「分けろ」
シンプルな言葉。
だが。
今の世界では、それが答えに近い。
サクヤが言う。
「それでも溢れたら」
刀に手をかける。
「その時は、来い」
三人は黙って頷く。
完全な解決じゃない。
だが。
一つの“やり方”は見えた。
帰り道。
リョウが空を見る。
「……なるほどな」
サクヤが聞く。
「何が」
リョウは答える。
「神の代わり」
サクヤは黙る。
リョウは続ける。
「一人で抱えるんじゃなくて」
「みんなで分ける」
ゆっくりと言う。
「それが、人間のやり方か」
サクヤは少しだけ考えて。
そして言う。
「理想だな」
リョウは笑う。
「現実は?」
サクヤは短く。
「偏る」
リョウは苦笑する。
「だよな」
だからこそ。
戦いは終わらない。
リョウは拳を握る。
「……でも、やるしかねえ」
サクヤも頷く。
「ああ」
空は静かだ。
だが。
その下で。
新しい均衡が、少しずつ作られていく。
不完全で。
歪んでいて。
それでも――
人の手で。




