第52話 救うか、斬るか
広場の空気が、凍りつく。
少女は宙に浮いたまま。
その瞳は、どこも見ていない。
ただ――“世界”を見ている。
「……処理、開始」
小さな声。
だが、その一言で。
周囲の空気が震える。
リョウの核が、激しく反応する。
ドクン!!
「……っ!」
流れが見える。
災気が、少女へと吸い込まれていく。
街中から。
人の中から。
見えない何かが、引き寄せられている。
リョウが呟く。
「……もう動いてる」
サクヤが言う。
「壊れるまで、な」
短い。
だが、現実。
神祀庁の男が満足げに頷く。
「成功です」
「これで、この街は守られる」
歓声は、上がらない。
誰もが理解している。
“何が起きているか”を。
リョウが前に出る。
「止める」
サクヤが横を見る。
「……どうやって」
リョウは答えない。
ただ、少女を見る。
流れ。
構造。
神と同じ。
だが――
完全じゃない。
「……まだ浅い」
今なら。
まだ“戻せる”可能性がある。
リョウが言う。
「俺がやる」
サクヤの目がわずかに動く。
「危険だぞ」
リョウは笑う。
「今さらだろ」
一歩踏み出す。
だが――
神祀庁の兵が前に出る。
「それ以上近づくな」
リョウは止まらない。
「どけ」
兵が構える。
緊張が走る。
その瞬間。
サクヤが動いた。
一閃。
ギィン!!
武器が弾かれる。
誰も傷つけていない。
だが――
完全に“道を開けた”。
サクヤが言う。
「行け」
リョウが小さく頷く。
「……借りるぞ」
一気に距離を詰める。
少女の前へ。
手を伸ばす。
その瞬間。
少女の目が、リョウを捉える。
「……対象、検知」
空気が変わる。
圧が増す。
リョウの体が軋む。
「……ぐっ!」
だが、止まらない。
核を握る。
ドクン!!
干渉。
少女の内部へ。
――入る。
白い空間。
だが、前とは違う。
不安定。
揺れている。
リョウが呟く。
「……未完成」
そして。
奥に、小さな影。
少女の“本体”。
膝を抱えて、座っている。
リョウが近づく。
「おい」
少女は顔を上げる。
怯えた目。
普通の、人間の目。
「……こわい」
その一言で。
全部分かる。
無理やりだ。
押し込まれている。
リョウはしゃがむ。
「大丈夫だ」
少女が首を振る。
「いや……」
周囲から、声。
無数の声。
「苦しい」
「重い」
「消えたい」
災気の声。
それが少女に流れ込んでいる。
リョウの拳が震える。
「……ふざけんな」
少女が言う。
「わたし……やらなきゃ」
リョウが顔を上げる。
「誰に言われた」
少女は答える。
「……みんな」
外の人間。
世界。
期待。
押し付け。
全部が、この小さな体に乗っている。
リョウは言う。
「やらなくていい」
少女の目が揺れる。
「でも……」
リョウは手を差し出す。
「逃げろ」
少女が固まる。
「……いいの?」
リョウは頷く。
「いい」
その代わり。
リョウの目が変わる。
「これは、壊す」
少女が息を呑む。
「……こわれる?」
リョウは静かに言う。
「終わらせる」
外の世界。
サクヤが見ている。
少女の体。
リョウの干渉で、揺れている。
神祀庁の男が叫ぶ。
「何をしている!!」
サクヤが前に立つ。
「邪魔するな」
冷たい声。
男は歯を食いしばる。
「それを壊せば、また世界は――」
サクヤは言う。
「分かってる」
「だから斬る」
リョウの意識の中。
少女が、小さく頷く。
「……うん」
その瞬間。
リョウは決める。
ドクン!!
流れを、断つ。
無理やり。
強引に。
神の構造を――
“切断”。
少女の体が、光る。
外の世界。
サクヤが構える。
「来るぞ」
リョウの声が響く。
「サクヤ!!」
「今だ!!」
サクヤが踏み込む。
一瞬の迷いもなく。
「――斬る」
ザン!!
光が弾ける。
少女の体を包んでいた“神”が、切り裂かれる。
災気が、拡散する。
だが――
暴走しない。
リョウが、抑えている。
必死に。
「……逃がすな!!」
サクヤが炎を蹴り上げる。
焼く。
浄化。
そして――
静寂。
少女の体が、ゆっくりと落ちる。
サクヤが受け止める。
リョウの意識が戻る。
その場に崩れる。
「……はぁ……」
サクヤが言う。
「生きてるか」
リョウは笑う。
「……ギリな」
少女は、眠っている。
ただの、人間として。
神祀庁の男が震える。
「……愚かな」
「これで、また世界は――」
リョウが遮る。
「それでいい」
男が睨む。
「何?」
リョウはゆっくり立ち上がる。
ボロボロのまま。
それでも。
はっきりと言う。
「もう、押し付けねえ」
静かに。
だが、強く。
サクヤも言う。
「繰り返さない」
男は笑う。
冷たい笑み。
「では、どうする?」
リョウは少し考える。
そして。
答える。
「考える」
男は呆れる。
「無責任だな」
リョウは笑う。
「そうだな」
でも。
それでも。
「それが、人間だろ」
沈黙。
風が吹く。
神のいない世界。
答えのない世界。
だが。
確かに、一歩進んだ。
物語は――
“人の選択”へと進んでいく。




