第51話 人の神
街の復旧は、思ったより早かった。
人は強い。
神がいなくなっても、とりあえず動く。
瓦礫をどかし、水を運び、食料を分け合う。
だが――
それは“表面”だけだ。
リョウは仮設の拠点で座り込んでいた。
「……静かすぎるな」
サクヤは壁にもたれている。
「嵐の前だ」
リョウは苦笑する。
「その例え、好きだな」
その時。
外がざわつく。
人の声。
ざわめき。
リョウが顔を上げる。
「……なんだ?」
サクヤはすでに動いている。
「行くぞ」
外。
広場。
人が集まっている。
中央に――
一人の男。
白い服。
見覚えがある。
リョウの顔が曇る。
「……神祀庁」
男は静かに手を上げる。
「皆さん、落ち着いてください」
よく通る声。
不思議と、人が静まる。
「まず、安心してください」
「世界は終わっていません」
リョウが小さく呟く。
「……言うねえ」
男は続ける。
「確かに、神は消えました」
ざわめき。
だが。
男は止まらない。
「しかし――」
一拍。
「我々には、代替手段があります」
空気が変わる。
リョウの目が細くなる。
「……来たな」
男の後ろ。
数人の兵士が運んでくる。
箱。
いや――
棺に近い。
ゆっくりと開かれる。
中にいるのは。
一人の少女。
眠っている。
リョウの鼓動が強くなる。
ドクン。
「……おい」
核が、反応する。
ありえないほど、強く。
男が言う。
「彼女が――」
静かに。
はっきりと。
「新しい神です」
ざわめきが、爆発する。
「はあ!?」
「何言ってんだ!?」
当然の反応。
だが。
男は冷静だ。
「正確には、“人の神”」
「人間でありながら、災気を処理できる存在」
リョウが前に出る。
「……ふざけるな」
男の視線が、リョウに向く。
「おや」
少しだけ、興味。
「あなたは……例の」
サクヤが横に立つ。
「説明しろ」
男は軽く笑う。
「簡単ですよ」
少女を指す。
「彼女は、適合者です」
「神と同じ構造を、人間に移植した」
リョウの顔が歪む。
「……それ、どうなるか分かってんのか」
男は即答する。
「ええ」
「いずれ壊れます」
空気が凍る。
だが。
男は続ける。
「しかし、その前に“次”を用意する」
リョウの拳が震える。
「……交換か」
男は頷く。
「効率的でしょう?」
完全に同じ。
神のシステムの再現。
人間で。
サクヤが一歩前に出る。
「やめろ」
短い言葉。
だが重い。
男は首を傾げる。
「なぜです?」
「これで世界は安定する」
「災害も減る」
「死も減る」
「平和が戻る」
正論の塊。
だからこそ。
厄介。
リョウが言う。
「その代わりに、一人が全部背負うんだろ」
男は微笑む。
「“一人”で済むなら、安いものです」
その言葉に。
空気が冷える。
サクヤが刀に手をかける。
「……斬るぞ」
リョウが止める。
「待て」
視線は少女に向いている。
眠っている。
何も知らない顔。
リョウが小さく呟く。
「……同じだ」
あの神たちと。
背負わされる存在。
違うのは。
“人間”だということ。
男が言う。
「起動します」
リョウが叫ぶ。
「やめろ!!」
だが。
遅い。
装置が光る。
少女の体が、浮く。
ドクン。
強烈な脈動。
周囲の空気が歪む。
リョウの核が、共鳴する。
「……っ!!」
少女の目が、ゆっくりと開く。
その瞳。
完全に――
“神のそれ”。
周囲のざわめきが止まる。
誰もが、息を呑む。
少女が口を開く。
「……処理、開始」
リョウの顔が青ざめる。
「……もう始まってる」
サクヤが静かに言う。
「どうする」
リョウは迷う。
ほんの一瞬。
だが。
その一瞬が、すべてを分ける。
目の前には。
“壊れる前の神”。
それを――
どうするか。
サクヤが言う。
「選べ」
その言葉。
また、来た。
リョウは拳を握る。
そして――
答えを出す。
物語は、新しい局面へ入る。




