第49話 最後の一線
崩れかけた空間の中で、中枢神はなお立っていた。
二度の斬撃。
それでも――まだ“終わらない”。
リョウは膝をついたまま、荒い呼吸を整える。
「……しぶとすぎだろ」
サクヤも息を吐く。
「当たり前だ」
視線は中枢から外さない。
「“中心”だからな」
中枢神がゆっくりと手を上げる。
次の瞬間。
空間が“圧縮”された。
ギリギリと音を立てるように、世界が狭まる。
リョウの顔が歪む。
「……締めてきやがった!」
サクヤの足が、わずかに沈む。
「圧殺か」
逃げ場はない。
なら――
壊すしかない。
中枢神の声が響く。
『終端処理 開始』
その言葉と同時に。
すべての神が、再び動き出す。
ただし今回は――
攻撃のためじゃない。
“一点に集まる”ため。
リョウの目が見開かれる。
「……おい」
サクヤが言う。
「自爆か」
リョウは叫ぶ。
「そんなの許すかよ!!」
核を握る。
ドクン!!
だが――
反応が鈍い。
さっきまでの負荷が、まだ残っている。
それでも。
やるしかない。
「……開けろ!!」
無理やり干渉。
空間の“圧縮”に割り込む。
少しだけ。
ほんの一瞬。
サクヤが踏み込む。
圧が強すぎる。
足が重い。
だが――
止まらない。
「……ここだ」
目の前。
中枢神。
その“核”。
そこに、すべてが集まっている。
一撃で決めるしかない。
サクヤが振りかぶる。
だが。
中枢神も動く。
今までとは違う。
完全な防御。
完璧な迎撃。
リョウが叫ぶ。
「止まるな!!」
核をさらに押し込む。
ドクン!!!
血が流れる。
鼻から、耳から。
それでも。
押す。
サクヤの一瞬を、作るために。
サクヤの目が鋭くなる。
「……ありがとよ」
一歩。
さらに踏み込む。
空間が裂ける。
中枢神の目が見開かれる。
初めての――
“遅れ”。
その瞬間。
すべてが重なる。
リョウの干渉。
サクヤの踏み込み。
そして――
中枢神の“集中”。
全てが一点に集まる。
サクヤが叫ぶ。
「――終わりだ」
振る。
全力。
すべてを込めた一閃。
「――斬る!!」
ザン!!!
今までで、最も静かな音。
中枢神の“核”が、真っ二つに裂ける。
一瞬。
空間が、止まる。
そして。
ドォォォォォォ!!!
爆発ではない。
消失。
すべてが、崩れていく。
統合体が。
神たちが。
空間が。
光が。
音が。
世界が――
静かにほどけていく。
リョウはその場に倒れ込む。
「……はぁ……はぁ……」
サクヤはゆっくりと刀を下ろす。
崩れかけた祠の中。
何も残っていない。
完全に。
静寂。
リョウが空を見る。
「……終わった……よな?」
サクヤは少しだけ間を置いて。
答える。
「ああ」
短く。
だが、確かに。
終わった。
リョウは力なく笑う。
「……長かったな」
サクヤも、わずかに目を細める。
「そうでもない」
リョウが振り向く。
「おい」
サクヤは空を見上げる。
「まだ終わりじゃない」
リョウが眉をひそめる。
「は?」
サクヤは言う。
「世界は変わる」
「神はいない」
少しだけ、風が吹く。
「その後をどうするかだ」
リョウは黙る。
そうだ。
神は消えた。
でも――
人は残る。
そして。
不幸も、災害も、死も。
これからは。
全部、人の手に戻る。
リョウはゆっくりと立ち上がる。
ボロボロの体。
それでも。
顔を上げる。
「……やるしかねえな」
サクヤは頷く。
「そうだ」
二人は並ぶ。
空を見る。
そこにはもう。
神はいない。
ただ――
広がる空だけ。
そして。
リョウが静かに言う。
「……神に頼れない世界か」
サクヤが答える。
「人が選ぶ世界だ」
少しの沈黙。
そして。
リョウは笑う。
「……悪くないな」
サクヤも、わずかに笑う。
「これからだ」
タイトルが、静かに浮かぶ。
堕ちた神に祝福を
神がいない世界で。
人は。
ようやく――
選び始める。




