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第44話 終わらせる者


風が戻る。


だが。


空気は張り詰めたまま。


神の胸には、深い傷。


完全だったはずの存在に――確かな“終わり”が見え始めていた。


リョウが息を整える。


「……あと一回だ」


サクヤは頷く。


「ああ」


神は、静かに二人を見る。


その目に。


わずかな変化。


「……不完全」


誰に向けた言葉か。


リョウか。


それとも――自分か。


次の瞬間。


神が動く。


今までで、最速。


空間が歪む。


視界が追いつかない。


サクヤが踏み込む。


真正面から。


逃げない。


受けるのでもなく。


斬るために。


神の一撃が来る。


見えない刃。


リョウが叫ぶ。


「右!!」


サクヤの体が、わずかにずれる。


ザシュッ!!


かすめる。


血が飛ぶ。


だが止まらない。


そのまま踏み込む。


神の懐へ。


神の目が動く。


読んでいる。


だが――


完全には読めない。


リョウの干渉。


ほんのわずかな“ズレ”。


それが、予測を狂わせる。


サクヤが振る。


ザン!!


深い。


だが。


まだ足りない。


神が反撃する。


距離ゼロ。


避けられない。


リョウが歯を食いしばる。


「……いけ!!」


ドクン!!


核が限界まで光る。


流れに触れる。


ねじる。


押し込む。


今までで一番、深く。


神の動きが、一瞬止まる。


完全に。


サクヤの目が見開かれる。


「……今だ」


振りかぶる。


全てを込める。


迷いも、躊躇もない。


ただ――


終わらせるために。


「――斬る」


ザン。


静かな音。


一瞬。


何も起きない。


次の瞬間。


神の体が、ゆっくりとズレる。


胸の中心から――


真っ二つに。


ドォォォ……


音もなく、崩れ始める。


光が漏れる。


中にあった災気が、解放される。


だが――


暴走しない。


リョウが、押さえている。


震える手で。


必死に。


「……逃がすな……!」


サクヤが一歩下がる。


神の崩壊を見届ける。


神は、最後にリョウを見る。


その目に。


わずかな――


「……理解」


声が、消えかける。


「選択……確認……」


そして。


静かに。


消えた。


光が、消える。


残ったのは――


何もない空間。


祠の前。


風だけが吹く。


リョウはその場に崩れ落ちた。


「……終わった」


サクヤが刀を納める。


「ああ」


短い言葉。


だが。


重い。


周囲の人々が、遠巻きに見ている。


誰も、すぐには近づけない。


それほどの戦いだった。


リョウは空を見る。


「……神、斬ったな」


サクヤは答える。


「いつも通りだ」


リョウは苦笑する。


「いや、いつもじゃねえよ……」


少し間を置く。


「壊れてなかったぞ、あいつ」


サクヤは言う。


「関係ない」


リョウが見る。


サクヤは続ける。


「壊れる前に斬る」


その信念は、変わらない。


リョウは小さく笑う。


「……徹底してるな」


その時。


核が、静かに光る。


ドクン。


リョウの顔が曇る。


『正常個体 排除 確認』


『倫理値 変動』


『適合率 上昇』


『中枢神 復元率 ――』


リョウが遮るように言う。


「……やめろ」


だが。


声は止まらない。


『――臨界値接近』


空気が凍る。


サクヤが見る。


「どうした」


リョウは、ゆっくりと手を見る。


震えている。


さっきよりも、はっきりと。


「……近づいてる」


何にかは、言わなくても分かる。


サクヤは静かに言う。


「止めるか」


リョウは少し考える。


そして。


首を振った。


「……まだだ」


顔を上げる。


「ここで止めたら」


「意味ない」


サクヤは頷く。


「そうだな」


その時。


遠くから、音がした。


ゴォォォ……


リョウが顔を上げる。


「……またか?」


だが。


違う。


これは。


“落ちる音”じゃない。


空を見上げる。


そこには――


巨大な影。


浮かんでいる。


動いている。


リョウの目が見開かれる。


「……なんだ、あれ」


サクヤも見る。


そして、静かに言った。


「……祠だ」


空中に。


無数の祠が、浮かんでいる。


その数。


一つや二つじゃない。


数十。


いや――


数百。


リョウの喉が鳴る。


「……嘘だろ」


サクヤが刀に手をかける。


「来るな」


その瞬間。


一つの祠が、崩れた。


ドクン。


黒い光が漏れる。


そして――


落ちる。


リョウが呟く。


「……神堕ち」


一つじゃない。


次々と。


空の祠が、崩れ始める。


世界規模の異常。


リョウの顔が青ざめる。


「……始まった」


サクヤが言う。


「ああ」


静かに。


だが、はっきりと。


「神の終わりだ」


空から、神が落ちる。


今度は――


一体じゃない。


世界中で、同時に。

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