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第43話 踏み越えるな


圧が、変わる。


神が“制限を外した”瞬間。


空気そのものが、敵になった。


ドクン。


一歩。


それだけで、地面が沈む。


リョウの呼吸が乱れる。


「……重っ……!」


立っているだけで、体が軋む。


サクヤでさえ、わずかに足をずらした。


「……さっきとは別物だな」


神は無言で、手を上げる。


振る。


それだけで。


空間が、裂けた。


見えない刃。


サクヤが反応する。


だが――


遅い。


ザシュッ!!


血が飛ぶ。


肩から腹にかけて、大きく裂かれる。


「……っ!」


それでも倒れない。


踏みとどまる。


リョウが叫ぶ。


「サクヤ!!」


神が言う。


「処理する」


次の一撃。


来る。


速い。


見えない。


リョウは核を握る。


ドクン!!


だが――


今度は、違う。


干渉が、届かない。


弾かれる。


それどころか。


逆流。


「っ……!?」


頭に激痛。


膝が崩れる。


神が言う。


「浅い」


冷たい声。


「その程度では、届かない」


サクヤが叫ぶ。


「離れろ!!」


リョウは歯を食いしばる。


「……まだだ」


立ち上がる。


震える足。


それでも。


逃げない。


核を握る手に、力を込める。


「……もう一段、深く」


サクヤの顔が変わる。


「やめろ」


リョウは聞かない。


神を見る。


その“内側”。


完全な流れ。


さっきは“ねじった”。


今度は――


「……入る」


ドクン!!


核が、暴れるように脈打つ。


視界が白く染まる。


世界が遠のく。


そして。


リョウの意識が――


神の内部へと沈む。


白い空間。


何もない。


だが。


すべてがある。


流れ。


災気。


構造。


完全な設計。


リョウが呟く。


「……これが」


理解してしまう。


神がどうやって成立しているか。


どうやって世界を支えているか。


そして。


どれだけのものを、背負っているか。


リョウの表情が歪む。


「……こんなの」


膨大な“負”が流れ込む。


不幸。


絶望。


死。


すべてが、ここに集まっている。


それでも。


崩れない。


壊れない。


完璧に処理している。


リョウが震える。


「……これを、ずっと……?」


その時。


背後から声。


「そうだ」


振り返る。


神がいる。


この空間の中に。


静かに立っている。


「これが役割だ」


リョウが言う。


「……狂ってる」


神は首を振る。


「正常だ」


一歩、近づく。


「だからこそ、世界は続く」


リョウは叫ぶ。


「だから壊れるんだろ!!」


神は止まらない。


「壊れない」


断言。


「壊れる前に、交換される」


リョウの心臓が止まりかける。


「……交換?」


神は言う。


「限界が来る前に、次へ」


「それがシステムだ」


リョウの拳が震える。


「……人間が作ったのか」


神は答えない。


だが。


否定もしない。


それが答えだった。


リョウは歯を食いしばる。


「……ふざけるな」


神は言う。


「なら、代わるか」


静かに。


「お前が」


空気が止まる。


リョウの視界が揺れる。


「……は?」


神は続ける。


「適合している」


「資質がある」


「なら、引き継げばいい」


あまりにも、当然のように。


リョウの中で、何かが揺れる。


理解してしまったからこそ。


分かる。


自分なら、できるかもしれない。


この負を、受け取ることが。


世界を、維持することが。


その代わり。


自分は――


人でなくなる。


サクヤの声が、遠くで響く。


「――リョウ!!」


現実の声。


引き戻す声。


神が手を差し出す。


「選べ」


リョウは、その手を見る。


そして――


思い出す。


泣いていた人たち。


助けられなかった人たち。


それでも。


手を伸ばしたこと。


サクヤの言葉。


「壊れる前に斬る」


リョウは、小さく笑った。


「……無理だな」


神がわずかに首を傾げる。


リョウは言う。


「俺は、背負わない」


その代わり。


拳を握る。


「押し付けもしない」


神の目が、ほんのわずかに変わる。


リョウは続ける。


「だから――」


核が、強く光る。


ドクン!!


「壊す」


その瞬間。


白い空間に、亀裂が入る。


神の流れが乱れる。


外の世界。


サクヤの前で。


神の動きが、一瞬止まる。


サクヤの目が鋭くなる。


「……戻ったな」


その隙。


見逃さない。


踏み込む。


振りかぶる。


「――斬る」


ザン!!


今までで、最も深い一撃。


神の体が、大きく裂ける。


現実に戻ったリョウが叫ぶ。


「サクヤ!!」


神が後退する。


明確に。


初めて、“下がった”。


胸の傷。


深い。


再生が、さらに遅い。


神が呟く。


「……拒否」


その声には。


わずかな“揺らぎ”。


完全ではない。


サクヤが刀を構える。


「十分だ」


リョウは息を荒げながら笑う。


「……ギリギリだけどな」


神を見る。


もう、絶対じゃない。


壊せる。


終わらせられる。


だが――


代償は確実に大きくなっている。


サクヤが言う。


「次で決める」


リョウが頷く。


「ああ」


神は静かに言う。


「排除する」


だが。


その声は、さっきよりわずかに弱い。


完全なものに、亀裂が入った。


そしてリョウは――


“踏み越えなかった”。


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