第41話 完全なもの
神が動く。
予備動作は、ない。
ただ「そうなる」だけで――距離が消える。
リョウの視界から、神が消えた。
次の瞬間。
サクヤの背後。
「――後ろだ!」
リョウの叫び。
だが、サクヤはすでに反応していた。
ギィン!!
振り向きざまの一閃。
神の手と、刀がぶつかる。
火花。
衝撃。
地面が沈む。
だが――
押される。
サクヤの足が滑る。
神が静かに言う。
「力が足りない」
次の瞬間。
衝撃が走る。
サクヤの身体が弾き飛ばされる。
ドォン!!
壁を貫き、さらに奥へ。
リョウが歯を食いしばる。
「くそっ……!」
核を握る。
ドクン!!
神へ干渉を試みる。
だが――
弾かれる。
まるで、触れることすら許されないように。
神が言う。
「無意味だ」
リョウが叫ぶ。
「まだだ!」
再び、干渉。
今度は深く。
内部へ。
流れを読む。
災気の循環。
完璧な制御。
無駄がない。
隙がない。
リョウの顔が歪む。
「……崩せない」
神が一歩近づく。
「当然だ」
その声に、感情はない。
ただの事実。
サクヤが瓦礫を蹴り飛ばし、戻ってくる。
「……硬いだけじゃないな」
血を拭う。
構える。
「完成している」
神は頷く。
「そうだ」
一切の迷いも、歪みもない。
だから――
壊れない。
サクヤが踏み込む。
速い。
今までで最速。
だが。
神は、それ以上。
避ける。
受ける。
流す。
すべてが、上。
ザン!!
サクヤの斬撃が、初めて“触れる”。
だが――
浅い。
皮膚すら、わずかに裂けるだけ。
神が言う。
「その程度か」
反撃。
一撃。
サクヤの身体が浮く。
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!!」
叩きつけられる直前。
サクヤは空中で体勢を変える。
着地。
踏みとどまる。
だが。
膝がわずかに沈む。
リョウが分かる。
「……差がデカすぎる」
神は言う。
「理解したか」
リョウは歯を食いしばる。
「……まだだ」
その時。
核が、強く脈打った。
ドクン!!
視界が変わる。
今までより、深く。
神の“内側”が見える。
リョウが息を呑む。
「……これ」
サクヤが聞く。
「何が見える」
リョウは言う。
「流れは完璧だ」
「でも……」
一点。
ほんの僅か。
「負荷が集中してる場所がある」
サクヤの目が鋭くなる。
「どこだ」
リョウが指差す。
「胸の中心、少し右」
神がわずかに反応する。
ほんの一瞬。
だが。
確かに。
サクヤは見逃さない。
「……そこか」
踏み込む。
神も動く。
迎え撃つ。
だが。
サクヤは止まらない。
フェイント。
踏み込みを変える。
速度を変える。
神の予測を、ほんの少しだけ外す。
その隙。
一瞬。
リョウが叫ぶ。
「今だ!!」
核が光る。
ドクン!!
ほんの一瞬だけ。
神の流れが“ズレる”。
完全ではない。
だが。
十分。
サクヤの刃が届く。
ザン!!
今度は、深い。
神の胸に、傷が刻まれる。
空気が震える。
神の動きが止まる。
初めて。
完全な存在に、“乱れ”が生じた。
リョウが叫ぶ。
「効いた!!」
だが。
神は倒れない。
ゆっくりと、自分の胸を見る。
血が流れている。
神が呟く。
「……損傷」
その声に。
初めて、わずかな“違和感”が混じる。
完全だったものに。
“欠け”が生まれた。
神が顔を上げる。
リョウとサクヤを見る。
「……修正する」
次の瞬間。
傷が、塞がり始める。
リョウの顔が凍る。
「……再生!?」
サクヤが低く言う。
「厄介だな」
神は言う。
「問題ない」
完全に戻る。
何もなかったかのように。
リョウが呟く。
「……チートかよ」
だが。
サクヤは笑った。
ほんのわずか。
「いや」
刀を構える。
「壊せる」
リョウが見る。
サクヤは続ける。
「一度、届いた」
それだけで十分だ。
リョウも頷く。
「……ああ」
もう一度やればいい。
何度でも。
そのために。
リョウは核を握る。
「ズラす」
サクヤが言う。
「斬る」
神は静かに構える。
「排除する」
三者。
視線が交差する。
完全な存在と。
壊す者と。
その境界に立つ者。
次の一撃で。
何かが決まる。
戦いは、さらに深くなる。




