第35話 切り捨てたもの
外縁の街に、静かなざわめきが残っていた。
助かった者。
助からなかった者。
その境界は、あまりにも曖昧で。
そして、あまりにもはっきりしていた。
リョウはその場から動けずにいた。
視線の先。
泣き崩れる人々。
遅れて駆け寄る家族。
何もできなかった者たち。
拳が震える。
「……俺が」
言葉が詰まる。
サクヤが隣に立つ。
何も言わない。
ただ、いる。
リョウは続けた。
「俺が、あっちを選んだから……」
サクヤが静かに言う。
「違う」
リョウが顔を上げる。
サクヤは前を見たまま。
「全部は救えない」
短く。
「それだけだ」
リョウは歯を食いしばる。
「でも……!」
サクヤが遮る。
「選ばなかったら」
少し間を置く。
「全員死んでいた」
沈黙。
リョウは言葉を失う。
それは、事実だ。
否定できない。
その時。
背後から声がした。
「……あんたたち」
振り返る。
さっきの商人だった。
表情は硬い。
だが。
どこか、迷いがある。
「助けてくれたのは……事実だ」
リョウが少しだけ顔を上げる。
商人は続ける。
「でもな」
視線が揺れる。
「見ちまった」
リョウの心臓が跳ねる。
「見た……?」
商人は言った。
「選んだだろ」
空気が重くなる。
「助けるやつと、捨てるやつ」
言葉が、突き刺さる。
リョウは何も言えない。
商人は小さく息を吐く。
「分かってる」
「全部無理なのも」
「俺たちじゃ何もできないのも」
少しだけ拳を握る。
「でもな……」
目が、まっすぐリョウを見る。
「それをやるのが“あんたたち”なんだろ」
沈黙。
期待と。
責任。
そして。
重さ。
全部が、そこにある。
リョウはゆっくりと言った。
「……そうだ」
声は小さい。
だが、はっきりと。
商人は頷いた。
「なら」
一歩下がる。
「ちゃんとやれ」
それだけ言って、去っていく。
リョウはその場に立ち尽くす。
サクヤが言う。
「行くぞ」
リョウは動かない。
「……なあ」
サクヤが止まる。
リョウは言った。
「これが続くのか」
サクヤは振り返る。
「選び続けるのか」
沈黙。
風が吹く。
サクヤは答えた。
「ああ」
迷いなく。
「終わるまで」
リョウは苦笑する。
「終わり、あるのかよ」
サクヤは少しだけ考えた。
そして。
「作る」
リョウが顔を上げる。
サクヤは言う。
「終わりは与えられない」
「なら」
静かに。
「斬って作る」
その言葉は。
あまりにも、サクヤらしかった。
リョウは小さく笑う。
「……乱暴だな」
サクヤは歩き出す。
「現実だ」
リョウも歩き出す。
だが。
足取りは重い。
その時。
核が、静かに光った。
ドクン。
頭の中に、あの声が響く。
『選択データ 更新』
リョウの顔が歪む。
『倫理値 上昇』
『効率値 低下』
『総合評価 未確定』
リョウが吐き捨てる。
「評価とか……いらねえよ」
だが。
声は続く。
『次段階に移行』
リョウの背筋が冷える。
「……次?」
サクヤが言う。
「来るな」
その瞬間。
街の奥で、爆発音がした。
ドォォン!!
煙が上がる。
悲鳴。
ざわめき。
リョウが顔を上げる。
「……またか!」
サクヤはすでに走り出している。
「行くぞ」
リョウも続く。
だが。
さっきとは違う。
胸の中に、重い何かが残っている。
選んだ。
切り捨てた。
その事実が。
消えない。
それでも。
走るしかない。
選択から逃げることはできない。
そして――
次の“試験”が、始まる。




