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第33話 境界の外



森を抜けた先。


そこは、妙に“薄い”場所だった。


リョウが足を止める。


「……なんだここ」


サクヤも周囲を見渡す。


「災気が少ない」


風が、軽い。


空気が澄んでいる。


これまで通ってきた場所とは、明らかに違う。


リョウが思い出す。


「ここ……外縁に近いな」


神の影響が薄い地域。


祠も少なく、神の守りも弱い。


その代わり――


災厄も、自己責任になる場所。


サクヤが言う。


「だから狙われにくい」


リョウは頷いた。


「なるほどな……」


だが。


違和感がある。


静かすぎる。


その時。


道の先に、人影が見えた。


一人。


ゆっくりとこちらに歩いてくる。


リョウが目を細める。


「……人?」


サクヤは即座に刀に手をかける。


「止まれ」


その声に、人影は足を止めた。


距離はまだある。


だが、はっきり見える。


若い男。


旅装束。


武器は持っていない。


だが――


どこか、おかしい。


リョウが小さく言う。


「災気が……ない」


サクヤの目が鋭くなる。


「あり得ないな」


この世界にいる以上、誰でも微量の災気は持つ。


それが、完全に“ゼロ”。


男は穏やかに笑った。


「警戒されてるね」


その声。


普通だ。


だが逆に、不自然なほど普通。


リョウが聞く。


「……何者だ」


男は少し考えるようにしてから言った。


「旅人、かな」


サクヤが即答する。


「嘘だな」


男は苦笑した。


「厳しいな」


一歩、前に出る。


その瞬間。


サクヤの刀が抜かれる。


ザン――


空気が裂ける音。


だが。


男は動かない。


そして。


斬撃が――


消えた。


リョウの目が見開かれる。


「は……?」


サクヤの目も、わずかに細くなる。


男は肩をすくめた。


「ほらね」


軽く言う。


「普通じゃないでしょ」


沈黙。


風が止まる。


リョウが呟く。


「……観測者か」


男は少しだけ首を傾げた。


「半分正解」


そして。


はっきりと言う。


「僕は“外に出た側”だ」


その言葉。


リョウの背筋が冷える。


「外……?」


男は空を見上げる。


「この世界の“外”」


サクヤが言う。


「意味が分からない」


男は笑った。


「だろうね」


そして。


少しだけ真剣な顔になる。


「でも重要なのはそこじゃない」


リョウが聞く。


「じゃあ何だ」


男は答えた。


「境界が壊れ始めてる」


沈黙。


サクヤが低く言う。


「……何の話だ」


男はリョウを見る。


「君なら分かるでしょ」


リョウは顔をしかめる。


「分からない」


だが。


心の奥で、何かが引っかかる。


男はため息をついた。


「簡単に言うよ」


一歩、踏み出す。


その瞬間。


空気が変わる。


重くなる。


存在感が増す。


「神の世界と」


「人の世界」


「それを分けてた境界が」


静かに。


「崩れ始めてる」


リョウの心臓が跳ねる。


「……それがどうした」


男は答えた。


「“手”が出てきた理由だよ」


空気が凍る。


サクヤの目が鋭くなる。


「……繋がっているのか」


男は頷く。


「観測だけじゃ足りなくなった」


「だから触り始めた」


リョウが言う。


「干渉……」


男は笑う。


「そう」


そして。


少しだけ楽しそうに言う。


「ここからが本番だ」


沈黙。


サクヤが刀を構える。


「敵か」


男は首を振る。


「違うよ」


少し間を置く。


「ただの傍観者」


リョウが吐き捨てる。


「またそれかよ」


男は肩をすくめた。


「手助けはしない」


「でも忠告はする」


サクヤが言う。


「いらない」


男は無視して続ける。


「神祀庁も気づいてる」


リョウが顔を上げる。


「……何を」


男は答えた。


「境界の崩壊」


そして。


静かに言った。


「だから急いでる」


「人工終末神」


空気が重く沈む。


サクヤの手に力が入る。


男は続ける。


「完成すれば」


「境界を強制的に固定できる」


リョウが呟く。


「……だから作るのか」


男は頷く。


「世界を守るためにね」


少し間を置く。


そして。


「代償は、全部神に押し付ける」


リョウが歯を食いしばる。


「……同じじゃないか」


男は笑った。


「そうだよ」


「何も変わらない」


風が吹く。


静かな風。


だが。


どこか冷たい。


男は最後に言った。


「選べよ」


リョウを見る。


「続けるか」


「壊すか」


そして。


サクヤを見る。


「それとも」


少しだけ目を細める。


「全部斬るか」


沈黙。


次の瞬間。


男の姿が、消えた。


風だけが残る。


リョウはしばらく動けなかった。


「……なんなんだよ」


サクヤは刀を収める。


「関係ない」


だが。


その声は、いつもより少しだけ低い。


リョウは空を見上げる。


境界。


崩壊。


人工終末神。


全部が繋がっていく。


「……時間がないな」


サクヤは歩き出した。


「ああ」


短く答える。


「急ぐぞ」


二人は再び歩き出す。


外縁の地へ。


その先にあるのは――


神の終わりか。


それとも。


世界の終わりか。


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