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第32話 選択の重さ


集落に朝日が差し込む。


倒れていた村人たちが、少しずつ目を覚まし始めていた。


「……ここは」


「何が……」


混乱した声。


だが、生きている。


リョウはそれを見て、小さく息を吐いた。


「……助かったな」


少女が父親に抱きつく。


泣き声と、安堵の声が広がる。


その光景を、サクヤは静かに見ていた。


「……」


リョウが横に立つ。


「どうした」


サクヤは短く言った。


「数が増えている」


リョウの顔が引き締まる。


「“手”か」


サクヤは頷く。


「あれは群れる」


少し間を置く。


「個体じゃない」


リョウは思い出す。


森で見た黒い塊。


あれは“末端”だった。


つまり。


「……本体が、どこかにある」


サクヤが言う。


「潰す」


リョウは苦笑する。


「簡単に言うな……」


だが、それしかない。


その時。


少女が二人の前に来た。


涙の跡を残したまま、頭を下げる。


「ありがとう」


リョウが少し照れたように言う。


「いや……」


少女は顔を上げる。


「でも」


少し迷ってから。


「また来るの?」


沈黙。


リョウは答えられない。


代わりに、サクヤが言った。


「来る」


少女の顔が曇る。


サクヤは続けた。


「だから離れろ」


「ここから」


少女が驚く。


「でも……」


サクヤは淡々と言う。


「ここは狙われた」


「もう安全じゃない」


現実だった。


リョウも頷く。


「……避難した方がいい」


村人たちがざわつく。


だが、反論は出ない。


さっきの光景を見たばかりだ。


誰も否定できない。


少女が小さく言った。


「……どこに行けばいいの」


リョウは言葉に詰まる。


安全な場所。


そんなものは、この世界にはない。


その時。


サクヤが言った。


「街だ」


リョウが見る。


「神祀都市か?」


サクヤは首を振る。


「違う」


少し間を置く。


「外縁の街」


リョウが思い出す。


「ああ……神の影響が薄い場所か」


サクヤは頷く。


「あそこなら」


「狙われにくい」


完全な安全ではない。


だが、ここよりはましだ。


村人たちが相談を始める。


少女はもう一度頭を下げた。


「……ありがとう」


サクヤは何も言わない。


ただ、背を向ける。


リョウが小さく笑う。


「愛想ないな」


サクヤは歩き出した。


「やることがある」


リョウも続く。


集落を離れる。


森へ戻る道。


しばらく無言で歩く。


やがて。


リョウが口を開いた。


「……さっきの声」


サクヤが聞く。


「観測者か」


リョウは頷く。


「うん」


少し間を置く。


「選択を確認、って言ってた」


サクヤは短く言う。


「見ているだけだ」


リョウは足を止めた。


「……それがムカつくんだよ」


サクヤが振り返る。


リョウは拳を握っていた。


「助けもしないで」


「評価だけして」


「結果は変わらない、とか言って」


吐き捨てるように。


「何様だよ」


沈黙。


サクヤはしばらく何も言わなかった。


やがて。


静かに言う。


「関係ない」


リョウが顔を上げる。


サクヤは続けた。


「見られていようが」


「試されていようが」


一歩、前に出る。


「やることは変わらない」


リョウは少しだけ目を見開いた。


サクヤは言う。


「敵を斬る」


「それだけだ」


シンプルだった。


だが。


芯が通っている。


リョウは苦笑する。


「……ブレないな」


サクヤは前を向く。


「お前はどうする」


その問い。


リョウは少し考えた。


空を見る。


青い空。


何もない。


だが、確実に“見られている”。


「……決めた」


サクヤが聞く。


「何を」


リョウは言った。


「選ぶのは俺たちだ」


少しだけ笑う。


「観測者じゃない」


サクヤは何も言わない。


だが。


わずかに目が細くなる。


リョウは続ける。


「だから」


核を握る。


「これも使う」


サクヤが見る。


「危険だ」


リョウは頷く。


「分かってる」


少し間を置く。


「でも、必要だ」


その言葉に、迷いはなかった。


サクヤはそれ以上止めない。


ただ言う。


「なら使え」


そして。


前を見る。


「その代わり」


リョウが聞く。


「何だ」


サクヤは答えた。


「壊れる前に言え」


リョウが一瞬、固まる。


サクヤは続けた。


「斬る」


軽く言った。


冗談のように。


だが。


本気だ。


リョウは苦笑した。


「……怖いな」


サクヤは歩き出す。


「当然だ」


森の奥へ。


次の戦場へ。


“手”は増え続ける。


観測は続く。


そして。


選択は、積み重なっていく。


その先に何があるのか。


まだ、誰も知らない。


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