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第31話 境界線

朝。


森を抜けた先に、小さな集落が見えた。


煙が上がっている。


人の気配。


だが――


どこか静かすぎる。


リョウが足を止めた。


「……変だな」


サクヤも同じように感じていた。


「静かだ」


二人はゆっくりと集落へ近づく。


入口。


倒れた柵。


荒らされた形跡はない。


だが。


人の姿もない。


リョウが呟く。


「……誰もいない?」


その時。


家の影から、一人の少女が現れた。


年は十歳くらい。


やせ細った体。


だが、目はしっかりしている。


少女は二人を見る。


そして。


小さく言った。


「……来た」


サクヤが一歩前に出る。


「お前、一人か」


少女は首を振る。


「違う」


ゆっくりと指をさす。


集落の奥。


「いる」


その言葉に、嫌な予感が走る。


リョウが聞く。


「何があった?」


少女は少しだけ黙った。


そして。


言った。


「みんな、変になった」


空気が重くなる。


サクヤが問う。


「神堕ちか」


少女は首を横に振る。


「違う」


その時。


足音がした。


ギ、ギ、ギ……


不自然な音。


ゆっくりと。


家の奥から、人影が現れる。


男。


普通の村人。


だが。


目が、虚ろ。


そして。


腕に、黒い糸が絡みついている。


リョウの顔が変わる。


「……あれ」


サクヤが低く言う。


「“手”か」


男が口を開く。


『接続 確認』


機械のような声。


その瞬間。


他の家の中からも、人が現れる。


女。


老人。


子供。


全員。


同じ目。


同じ黒い糸。


少女が震える声で言う。


「……みんな、ああなった」


リョウが息を呑む。


「人間を……使ってるのか」


サクヤは刀を抜いた。


「操られている」


少女が叫ぶ。


「殺さないで!!」


一瞬の沈黙。


サクヤの動きが止まる。


リョウが言う。


「……助けられるか」


サクヤは答えない。


ただ。


前を見ている。


村人たちが、ゆっくりと近づいてくる。


包囲。


逃げ場はない。


リョウが核を握る。


「……やる」


集中する。


黒い糸。


流れ。


繋がり。


見える。


だが。


その中心は。


ここじゃない。


もっと遠い。


リョウが呟く。


「本体は……別だ」


サクヤが言う。


「今は関係ない」


村人たちが一斉に動いた。


速い。


さっきの影よりも。


サクヤが踏み込む。


だが。


刃が止まる。


目の前は。


人間。


ほんの一瞬。


迷い。


その隙に。


男の腕が振り下ろされる。


ドン!!


サクヤは後ろへ跳ぶ。


距離を取る。


リョウが叫ぶ。


「サクヤ!」


サクヤは低く言った。


「……厄介だな」


少女が叫ぶ。


「助けて!!」


リョウが歯を食いしばる。


「やるしかない……!」


核が光る。


ドクン!!


村人たちの動きが、一瞬だけ止まる。


サクヤの目が動く。


「……止められるのか」


リョウが叫ぶ。


「一瞬だけ!」


サクヤが頷く。


「十分だ」


踏み込む。


だが今度は。


斬らない。


村人の腕を払う。


蹴りで体勢を崩す。


次。


首元に手刀。


気絶させる。


リョウが驚く。


「殺してない……!」


サクヤは淡々と答える。


「斬る必要はない」


だが。


数が多い。


十。


二十。


三十。


囲まれている。


リョウの制御も長くはもたない。


「くっ……!」


核が熱を持つ。


負荷が大きい。


その時。


少女が叫んだ。


「糸を!!」


リョウが振り向く。


少女は必死に言う。


「腕の糸を切れば戻る!」


サクヤの目が鋭くなる。


「……本当か」


少女は頷く。


「お父さん、戻った!」


足元を見る。


一人の男が倒れている。


腕の糸が切れている。


呼吸している。


リョウが叫ぶ。


「やれる!!」


サクヤが踏み込む。


今度は狙いが違う。


腕。


黒い糸。


一閃。


ザン!!


糸だけを断つ。


村人が崩れる。


だが。


生きている。


サクヤは次へ。


次へ。


次へ。


正確無比。


すべての糸を斬っていく。


リョウは必死に動きを止め続ける。


汗が流れる。


呼吸が荒い。


だが止めない。


やがて。


最後の一人。


糸が切れる。


村人たちが全員、倒れた。


静寂。


風が吹く。


リョウがその場に座り込む。


「……はぁ……」


サクヤは刀を収めた。


少女が駆け寄る。


「みんな……!」


一人一人を確認する。


そして。


泣きながら笑った。


「……よかった」


リョウが呟く。


「助かった……」


だが。


サクヤは空を見ていた。


「……違う」


リョウが顔を上げる。


「何が」


サクヤは言った。


「これは試しだ」


沈黙。


リョウの背筋が冷える。


その時。


核が、静かに光った。


ドクン。


頭の中に、声が響く。


『人類の選択を確認』


リョウの拳が震える。


『殺すか』


『救うか』


『効率か』


『倫理か』


無機質な声。


感情はない。


だが。


確実に見ている。


リョウが小さく呟く。


「……ふざけるな」


その横で。


サクヤは静かに言った。


「次は」


空を見上げる。


「もっと来る」


少女の泣き声の中。


二人は理解する。


これはただの戦いじゃない。


試されている。


そしてその試験は。


まだ、始まったばかりだった。

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