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第29話 “手”の兆し

夜明け前。


森はまだ暗く、空気は冷たい。


焚き火はすでに消えていた。


サクヤは立っていた。


目を閉じ、周囲の気配を探る。


リョウは少し離れた場所で眠っている。


――はずだった。


サクヤの目が開く。


「……起きろ」


次の瞬間。


リョウの身体が跳ねるように起き上がった。


「っ!」


同時に。


手の中の核が、強く光る。


ドクン!!


森の奥から、音がした。


ザザ……ザザザ……


何かが、近づいてくる。


サクヤは刀を抜いた。


「来る」


リョウも立ち上がる。


まだ寝起きの顔だが、目は鋭い。


「神堕ちか?」


サクヤは首を振る。


「違う」


その時。


影が現れた。


一つ。


二つ。


三つ。


木々の間から、ゆっくりと出てくる。


人の形。


だが。


目が光っていない。


表情もない。


リョウが呟く。


「……何だ、あれ」


サクヤは答えた。


「動いている」


「それは見れば分かる」


サクヤは少しだけ間を置く。


「……生きていない」


沈黙。


影たちが、一斉に顔を上げた。


そして。


リョウを見た。


その瞬間。


核が強く脈打つ。


ドクン!!


影たちが動いた。


一斉に。


一直線に。


リョウへ。


「来た!」


サクヤが前に出る。


一歩で間合いを詰める。


ザン!!


先頭の一体を斬る。


だが。


手応えが違う。


肉ではない。


木でもない。


「……硬い」


斬られたそれは、崩れる。


だが。


中から黒い糸のようなものが見えた。


うごめいている。


リョウが叫ぶ。


「それ……災気だ!」


サクヤの目が鋭くなる。


「操っているのか」


次の影が迫る。


拳。


サクヤはそれを受け流し、斬る。


ザン!!


二体目、崩壊。


だが。


また中から黒い糸。


それが地面に這い、別の影へと繋がる。


リョウが息を呑む。


「繋がってる……!」


その時。


核がさらに強く光った。


ドクン!!


リョウの手が、勝手に動く。


「……え?」


腕が上がる。


核が、前へ向く。


そして。


黒い糸が、一瞬だけ止まった。


ピタリと。


サクヤが気づく。


「……止めたか」


リョウが戸惑う。


「俺じゃない!」


だが。


事実として、止まっている。


その隙に。


サクヤが踏み込む。


一閃。


ザン!!


まとめて三体を斬り裂く。


黒い糸が弾ける。


だが。


まだ来る。


森の奥から。


さらに影が現れる。


リョウが叫ぶ。


「キリがない!」


サクヤは冷静に言う。


「本体がいる」


リョウが頷く。


「操ってるやつか」


その時。


核が、ゆっくりと回転した。


光が揺れる。


そして。


リョウの視界に、線が見える。


黒い糸の流れ。


すべてが、一点へと集まっている。


森の奥。


リョウが指を指す。


「……あそこだ!」


サクヤは即座に動いた。


影を無視して、一直線に走る。


リョウも続く。


背後から影が迫る。


だが。


そのたびに。


核が光る。


ドクン。


一瞬だけ、動きが止まる。


その隙に。


サクヤが斬る。


前へ。


前へ。


森を抜ける。


そして。


開けた場所に出た。


そこに――


“それ”はいた。


地面に、黒い塊。


脈打っている。


まるで心臓のように。


無数の糸が、そこから伸びている。


リョウが呟く。


「……これが本体」


サクヤは刀を構える。


「斬る」


その瞬間。


黒い塊が、うねった。


そして。


声が響く。


『……接続……確認……』


リョウの目が見開かれる。


「これ……」


核を見る。


同じ声。


同じ響き。


サクヤが言う。


「同じか」


リョウは震える声で言った。


「……違う」


一歩下がる。


「これ」


黒い塊を見る。


「“手”だ」


空気が凍る。


サクヤの目が鋭くなる。


「……何だと」


リョウは思い出す。


あの言葉。


『いずれ“手”になる』


つまり。


これは。


観測だけではない。


介入。


黒い塊が、さらに脈打つ。


ドクン!!


影たちが一斉に動く。


今度は速い。


明らかに強化されている。


リョウが叫ぶ。


「来るぞ!」


サクヤは一歩踏み出した。


「……いい」


静かに言う。


「まとめて斬る」


刀を構える。


黒い塊へ。


一直線に。


観測は終わり。


介入が始まる。


戦いは、次の段階へ入る。


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