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第26話 残された核

試作神が消えた後の都市は、奇妙な静けさに包まれていた。


崩れた塔。砕けた石畳。倒れた建物。


だが――


人々は生きている。


リョウはその光景を見て、少しだけ息を吐いた。


「……思ったより被害は少ない」


サクヤが答える。


「中心だけだ」


二人は崩壊した塔へと歩く。


瓦礫を越え、崩れた階段を上る。


上へ。


中枢へ。


そこは、先ほどまで神が生まれていた場所。


白い床はひび割れ、装置は焼け焦げている。


そして。


中央に、それはあった。


リョウが足を止める。


「……あれ」


床の中央。


円形の装置の中に。


一つだけ、光が残っている。


小さな核。


弱く、揺らめく光。


サクヤが言う。


「残骸か」


リョウは首を振った。


「違う」


ゆっくり近づく。


「……生きてる」


核が、かすかに脈打つ。


ドクン。


ドクン。


リョウの顔が変わる。


「これ……」


手を伸ばしかけて、止まる。


サクヤが言う。


「触るな」


リョウは頷く。


「うん……でも」


目を細める。


「変なんだ」


サクヤが聞く。


「何が」


リョウは言った。


「普通、神はもっと安定してる」


核を見る。


「でもこれ……」


少し考える。


「不完全」


その時。


核が、微かに光を強めた。


リョウの頭に、何かが流れ込む。


――白い空間。


――無数の光。


――声。


『……まだ、終わっていない』


リョウが息を呑む。


「……今の」


サクヤが一歩前に出る。


「何だ」


リョウは核を見つめたまま言う。


「声がした」


沈黙。


サクヤの手が刀にかかる。


「神か」


リョウはゆっくり頷いた。


「たぶん……」


核が、また脈打つ。


今度は少しだけ強く。


『……観測……継続……』


リョウの瞳が揺れる。


「……観測?」


その言葉に、違和感があった。


神が使う言葉ではない。


サクヤも感じ取る。


「普通の神じゃないな」


リョウは小さく言った。


「……うん」


その時。


足音がした。


崩れた壁の向こうから、数人の影が現れる。


白い装束。


神祀庁の人間。


サクヤが前に出る。


刀を抜く。


「……来たか」


リョウが言う。


「まだいるのか」


神官の一人が口を開く。


「それを渡してもらう」


視線は、核へ。


サクヤは一歩も引かない。


「断る」


神官たちが構える。


「それは我々の資産だ」


サクヤの声は冷たい。


「神だ」


「物じゃない」


一瞬の沈黙。


神官が言う。


「同じだ」


その瞬間。


サクヤの姿が消えた。


ザン!!


一閃。


神官たちの武器が弾き飛ばされる。


誰も斬られてはいない。


だが。


一歩も動けない。


サクヤが言う。


「帰れ」


声は低い。


「次は斬る」


神官たちは後退する。


悔しそうに歯を食いしばりながら。


やがて、その場を去っていった。


静寂が戻る。


リョウが呟く。


「……助かった」


サクヤは核を見た。


「どうする」


リョウは少し考える。


そして言った。


「持っていく」


サクヤが聞く。


「理由は」


リョウは答える。


「気になる」


核を見る。


「さっきの声……」


少し間を置く。


「神じゃない気がする」


サクヤの目が細くなる。


「……何だ」


リョウは小さく言った。


「分からない」


だが。


確信があった。


「でも」


核を見る。


「これ、放っておいたらまずい」


サクヤは少しだけ考えた。


そして頷く。


「いい」


リョウは慎重に核へ手を伸ばす。


今度は、触れる。


温かい。


だがどこか、不自然な温度。


核が、弱く光る。


『……適合……確認……』


リョウの目が見開かれる。


「……今の」


サクヤが聞く。


「またか」


リョウは頷いた。


「うん」


そして、静かに言う。


「これ……」


核を見つめる。


「俺を見てる」


風が吹く。


崩れた塔の上で。


小さな光が、かすかに脈打っていた。


まるで。


誰かが、世界を観測しているかのように。

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