第25話 終わらせる一撃
空が裂けるような音がした。
試作神の身体が膨れ上がる。
残った核が暴走し、互いに干渉し合う。
光が乱れる。
形が歪む。
もはや神の形ですらない。
リョウが叫ぶ。
「崩壊する!!」
サクヤは動かない。
ただ、空を見ている。
主核。
ひび。
だが。
周囲の核が邪魔をしている。
リョウが歯を食いしばる。
「このままじゃ斬れない……!」
サクヤが聞く。
「方法は」
リョウは即答した。
「ある」
サクヤが視線だけ向ける。
リョウは言った。
「全部、止める」
沈黙。
サクヤが言う。
「できるのか」
リョウは一瞬だけ迷った。
そして。
頷く。
「……やる」
サクヤはそれ以上聞かない。
ただ言う。
「頼む」
その一言。
リョウは目を見開いた。
だがすぐに、前を見る。
試作神。
暴走する災気。
そして。
ゆっくり手を伸ばした。
「……止まれ」
世界が、わずかに静かになる。
空気が張り詰める。
リョウの視界が変わる。
線が見える。
災気の流れ。
核の接続。
すべてが、手の中にあるような感覚。
だが。
重い。
圧倒的な情報量。
「ぐっ……!」
頭が割れそうになる。
それでも。
手を握る。
「止まれ!!」
ドクン――
試作神の核が、一瞬だけ止まった。
完全な停止ではない。
だが。
ズレが消える。
サクヤの目が鋭くなる。
「……今だ」
地面を蹴る。
一瞬で屋根へ。
さらに跳ぶ。
空中。
時間が引き伸ばされたように遅い。
試作神の胸。
主核。
一直線。
だが。
その瞬間。
試作神の目が開いた。
ズン。
圧力が戻る。
リョウの制御が崩れかける。
「くっ……!」
サクヤの動きが鈍る。
主核まで、あと一歩。
届かない。
――そのはずだった。
サクヤの足が、もう一歩前に出る。
無理やり。
身体がきしむ。
骨が軋む。
だが止まらない。
「……届く」
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!!」
サクヤは答えない。
ただ。
刃を振り下ろす。
「――斬る」
ザン。
音は、小さかった。
だが。
確かに。
主核が、断ち切られた。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
ドォォォォォォォォ!!
光が爆発する。
だがそれは破壊ではない。
崩壊。
核同士のバランスが完全に崩れる。
試作神の身体が、内側から崩れていく。
黒い霧となって、空へ散る。
腕が消える。
胴が崩れる。
最後に。
主核の光が、静かに消えた。
都市に、静寂が戻る。
風が吹く。
黒い残滓が、空へ流れていく。
サクヤが地面に着地した。
膝をつく。
だが、すぐに立ち上がる。
リョウはその場に崩れ落ちた。
「……はぁ……」
呼吸が荒い。
サクヤが近づく。
「生きてるか」
リョウは苦笑した。
「ギリギリ……」
そして。
空を見る。
試作神は、もういない。
「……勝った?」
サクヤは短く言う。
「終わった」
その時。
塔の上から拍手が聞こえた。
パチ、パチ、パチ。
二人が顔を上げる。
神祀庁の男が、ゆっくりと拍手していた。
「見事だ」
静かな声。
だがどこか楽しそうだ。
「試作とはいえ、よく壊した」
リョウが睨む。
「……次は何だ」
男は首を傾げた。
「何も」
そして。
静かに言う。
「今日はこれで十分だ」
サクヤが刀を構える。
「逃がすと思うか」
男は笑った。
「君たちに、まだ価値がある」
リョウが言う。
「価値?」
男は頷く。
「中枢神」
リョウを見る。
「神喰らい」
サクヤを見る。
そして。
はっきりと言った。
「完成に必要だ」
空気が変わる。
サクヤの目が鋭くなる。
「……完成?」
男は答えた。
「人工終末神」
沈黙。
リョウの背筋が冷える。
男は続ける。
「すべての神を束ねる存在」
「世界の災気を、完全に処理する神」
サクヤが言う。
「壊れる」
男は笑った。
「壊れない」
そして。
静かに言った。
「君たちがいるからだ」
リョウの顔が歪む。
「ふざけるな……!」
男は一歩下がった。
影の中へ。
「いずれ分かる」
その姿が、ゆっくりと消えていく。
「人は」
最後に声だけが残る。
「神を必要とする」
静寂。
風が吹く。
サクヤは刀を下ろした。
リョウが呟く。
「……人工終末神」
サクヤが言う。
「斬る」
リョウは苦笑した。
「だよな……」
だが。
その表情は少しだけ重い。
空を見上げる。
そこにはもう神はいない。
だが。
確実に。
次は、もっと大きい。
リョウが小さく言った。
「……間に合うかな」
サクヤは歩き出した。
「間に合わせる」
それだけだった。
崩れた都市の中。
二人は、次の戦いへ向かう。




