第23話 神を斬る剣
サクヤが地面を蹴った。
瓦礫を踏み越え、屋根へ跳び、さらに空へ。
一直線に――試作神の胸へ向かう。
都市の上空では、災気の渦が膨れ上がっていた。
黒い雲が試作神に吸い込まれていく。
ドクン。
ドクン。
胸の核が脈打つ。
リョウが叫ぶ。
「急げ!」
サクヤは答えない。
ただ、加速する。
試作神の肩に着地。
ズン、と重い衝撃。
同時に。
身体に圧力がかかる。
「……!」
空気が重い。
災気の圧縮。
リョウの言っていた通りだ。
まるで水の中にいるように動きが鈍る。
試作神が腕を振る。
巨大な拳。
サクヤは一歩踏み込み、拳を蹴って跳んだ。
空中。
そのまま胸へ。
刀を振り上げる。
だが。
その瞬間。
試作神の胸の核が一斉に光った。
ドン!!
衝撃波。
サクヤの身体が弾き飛ばされる。
屋根を突き破り、地面へ落ちる。
瓦礫が舞う。
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!」
煙の中から、サクヤが立ち上がった。
口元の血を拭う。
「……なるほど」
リョウが驚く。
「大丈夫か!?」
サクヤは空を見る。
試作神。
まだ災気を吸い続けている。
「硬い」
リョウは必死に説明する。
「核が多すぎるんだ!」
「普通の神は核一つ!」
「でもあれは複数!」
サクヤは刀を握り直す。
「主核は?」
リョウは言った。
「胸の中央!」
「でも周りの核が守ってる!」
サクヤは少し考えた。
そして言う。
「なら」
リョウが聞く。
「何?」
サクヤは答えた。
「全部斬る」
リョウが叫ぶ。
「簡単に言うな!」
その時。
試作神が腕を振り上げた。
都市の中央へ向かって。
リョウの目が大きく開く。
「まずい!」
拳が落ちる。
ドォォォォン!!
大通りが崩壊した。
建物が倒れる。
人々の悲鳴。
サクヤの目が細くなる。
「……街ごと壊す気か」
塔の上で。
神祀庁の男は静かに観察していた。
研究員が慌てている。
「都市が持ちません!」
「止めましょう!」
男は答えた。
「続けろ」
「だが……」
男は言った。
「都市はまた作れる」
そして空を見る。
「神のデータの方が価値がある」
リョウが怒鳴る。
「人が死ぬんだぞ!!」
男は静かに言った。
「神は」
「人類のために存在する」
リョウが言う。
「だからって!」
男は続ける。
「犠牲は必要だ」
その時だった。
サクヤが言った。
「……よく喋るな」
男の視線がサクヤへ向く。
サクヤは刀を構えていた。
「神も」
「人も」
「お前も」
静かに言う。
「壊れる前に止める」
次の瞬間。
サクヤが走った。
屋根。
壁。
瓦礫。
次々と踏み越える。
そして跳ぶ。
再び。
試作神へ。
リョウが叫ぶ。
「無茶だ!」
サクヤは空中で呟いた。
「無茶は」
刀を構える。
「いつもだ」
試作神の肩に着地。
そのまま一気に胸へ。
今度は止まらない。
試作神の腕が迫る。
サクヤは避けない。
踏み込む。
そして。
刀が光る。
ザン!!
一つ目の核が砕けた。
黒い霧が爆発する。
試作神が咆哮する。
ドォォォォ!!
サクヤは止まらない。
二歩目。
ザン!!
二つ目の核。
三歩目。
ザン!!
三つ目。
リョウが目を見開く。
「……速い」
だが。
四つ目に刃が届いた瞬間。
試作神の身体が膨れ上がった。
ドクン!!
災気が爆発する。
サクヤの身体が吹き飛ばされる。
空中。
屋根へ叩きつけられる。
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!」
サクヤはゆっくり立ち上がった。
呼吸が少し荒い。
空を見る。
試作神。
まだ動いている。
だが。
三つの核が消えている。
リョウが呟く。
「……削れてる」
サクヤが言った。
「あと」
試作神の胸を見る。
「七つ」
リョウが苦笑する。
「まだ多い!」
その時。
塔の上の男が、小さく笑った。
「面白い」
そして。
研究員に言う。
「記録しておけ」
サクヤを見る。
「やはり」
「神喰らいは特別だ」
リョウが聞き返す。
「何?」
男は言った。
「君たちは」
「神を殺すために作られた」
一瞬。
空気が止まる。
リョウが言う。
「……今」
「何て言った?」
男は静かに微笑んだ。
「知らなかったのか?」
そして。
サクヤを指差す。
「その女は」
「人間ではない」
沈黙。
都市の上空で。
試作神が再び咆哮した。




