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第2話 神を見る男

広場にはまだ粉塵が漂っていた。


倒れた屋台。


砕けた石畳。


真っ二つになった神堕ちの残骸は、すでに黒い霧となって空へと消えていく。


人々は遠巻きにその様子を見ていた。


そして。


彼らの視線は、自然と二人の人物に集まっていた。


神を斬った女。


そして。


空から落ちてきた男。


「……で?」


サクヤが腕を組んだ。


「なんで空から落ちてきた」


リョウはしばらく黙っていたが、やがて困った顔をした。


「それがさ」


「覚えてない」


「……」


「気付いたら空にいて、落ちてた」


「…………」


サクヤは無言でため息をついた。


嘘をついている様子はない。


だが、まともな説明でもない。


周囲の人々がざわつく。


「神喰らい様……」


街の役人らしき男が恐る恐る近づいてきた。


「その者は……?」


サクヤは短く答えた。


「不明」


「え?」


「空から落ちてきた」


役人はぽかんと口を開けた。


「……は?」


リョウが苦笑する。


「まあ、そうなるよね」


サクヤは彼をじっと見ていた。


さっきの言葉。


「神が見える」


それが本当なら――


普通の人間ではない。


「もう一度聞く」


サクヤは言った。


「神が見えるのか」


「うん」


リョウはあっさり答えた。


そして広場の中央を指さす。


「そこ」


「まだ残ってる」


サクヤが振り向く。


そこには何もない。


だが。


神喰らいの感覚には、確かに微かな気配があった。


神の残滓。


普通の人間には感じ取れないもの。


リョウはそれを見ている。


「ほら」


リョウは目を細めた。


「今、消えた」


サクヤの背筋にわずかな違和感が走る。


本当だ。


今、完全に消えた。


タイミングが一致している。


偶然ではない。


「……面白い」


サクヤは呟いた。


「え?」


リョウが首をかしげる。


サクヤは彼に近づいた。


「お前」


「何者だ」


「だから覚えてないって」


「嘘をつけ」


「いやほんとだって!」


リョウは慌てて手を振る。


「自分でもびっくりしてるんだよ!空から落ちるし、神とか見えるし!」


その時だった。


サクヤの視線が、ふと遠くへ向いた。


街の奥。


祠のある丘。


そこから、薄い黒い霧が立ち上っている。


サクヤの表情が変わる。


「……またか」


リョウが振り向いた。


「え?」


サクヤは刀の柄に手を置く。


「この街」


「祠はいくつある」


役人が答えた。


「え、えっと……五つです」


サクヤは霧を見つめた。


「今ので一つ」


「残り四つ」


その時。


リョウがぽつりと言った。


「……三つだよ」


サクヤが振り向く。


「何?」


リョウは丘を指差した。


「今、あれ一つ堕ちた」


次の瞬間。


ドォォン!!


丘の方から爆音が響いた。


煙が上がる。


街の人々が悲鳴をあげた。


「神堕ちだ!」


「また祠が!」


サクヤはリョウを見た。


「……見えたのか」


リョウは困った顔で笑った。


「うん」


「なんか」


「わかる」


サクヤは数秒黙っていた。


そして言った。


「来い」


「え?」


「逃げたいなら好きにしろ」


サクヤは丘へ歩き出す。


「だが」


「この街は今日、地獄になる」


リョウは空を見上げた。


街のあちこちから、黒い気配が立ち上り始めている。


祠。


神。


そして――


災気。


胸の奥がざわつく。


嫌な予感がした。


「……待って」


リョウは立ち上がった。


「俺も行く」


サクヤは振り返らない。


「死ぬぞ」


「さっき死にかけたし」


「慣れてる」


「慣れるな」


サクヤは小さくため息をついた。


「足手まといになるな」


リョウは笑った。


「神の場所ならわかる」


その言葉に、サクヤの足が止まる。


振り向く。


「全部か」


「多分」


短い沈黙。


そしてサクヤは言った。


「……役に立つ」


「だろ?」


「ただし」


サクヤは冷たい目で言う。


「神は救えない」


「壊れる前に殺す」


「それが神喰らいだ」


リョウは少し考えてから言った。


「……もしかしたら」


「救えるかもしれない」


その瞬間。


サクヤの目が鋭くなった。


「幻想だ」


「神は壊れる」


「壊れたら終わりだ」


リョウは静かに言った。


「じゃあさ」


「なんで神は壊れるの?」


サクヤは答えなかった。


二人の間に風が吹く。


遠くで、また爆音がした。


二つ目の祠。


神が堕ちた。


リョウは呟く。


「……おかしい」


サクヤが聞く。


「何が」


リョウは空を見上げた。


「災気の流れ」


「こんな増え方」


「普通じゃない」


サクヤは刀を握る。


「原因があるってことか」


リョウはゆっくり言った。


「うん」


「そして多分」


少し間を置く。


「それ」


「俺、関係してる」


サクヤは眉をひそめた。


「どういう意味だ」


リョウは遠くの空を見る。


その目は、どこか懐かしそうだった。


「わからない」


「でも」


胸の奥が痛む。


頭の奥で、何かが軋む。


祠。


神。


そして。


巨大な光の柱。


リョウは小さく呟いた。


「……俺」


「昔」


「神だった気がする」


その言葉を。


サクヤは、まだ信じていなかった。


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