第19話 次の街
朝。
瓦礫だらけの街に、弱い光が差していた。
昨夜の嵐が嘘のように、空は静かだ。
だが。
街の傷は残っている。
崩れた家。
割れた石畳。
そして、消えた祠の神。
リョウは祠の前に立っていた。
小さな木の社。
その中には――何もない。
「……空っぽだ」
サクヤが後ろから言う。
「神祀庁が回収した」
リョウは静かに頷いた。
「うん」
祠の中に手を入れる。
冷たい。
本来なら、ここには神の気配がある。
だが今は。
完全な空洞。
リョウは呟く。
「神を回収するなんて……」
「普通はできない」
サクヤが聞く。
「なぜ」
リョウは振り向いた。
「神は祠と繋がってる」
「土地と、災気の流れと」
少し言葉を探す。
「……つまり、根っこみたいなものだ」
サクヤが言う。
「それを抜いた」
「うん」
リョウは顔を曇らせる。
「かなり強引な方法だ」
その時。
後ろから声がした。
「神喰らい様」
二人が振り向く。
街の兵士だった。
疲れた顔をしている。
「昨夜はありがとうございました」
サクヤは短く答える。
「仕事だ」
兵士は少し苦笑した。
「それでもです」
そして。
声を潜める。
「ですが……」
リョウが聞く。
「何かあった?」
兵士は言った。
「隣の街です」
サクヤの目が動く。
「どうした」
兵士は答えた。
「祠の神が」
「消えました」
沈黙。
リョウの顔が変わる。
「また?」
兵士は頷く。
「今朝、報告が来ました」
サクヤが言う。
「神祀庁か」
「おそらく」
兵士は続ける。
「それだけじゃありません」
リョウが聞く。
「まだあるの?」
兵士は言った。
「三つの街です」
空気が凍る。
リョウが呟く。
「……三つ」
兵士は頷いた。
「同時に神が消えました」
サクヤは静かに目を閉じた。
「回収を始めたな」
リョウの背筋が冷える。
神祀庁の男の言葉が蘇る。
材料は世界中の神。
リョウが言う。
「……巨大中枢神」
サクヤが頷く。
「作る気だ」
兵士が不安そうに聞く。
「それは……」
リョウは答えなかった。
ただ。
空を見上げた。
黒い雲。
遠くの空。
そこにも、災気が漂っている。
リョウが言った。
「サクヤ」
「何だ」
「もし神が全部いなくなったら」
サクヤは答えた。
「世界が壊れる」
リョウは頷く。
「うん」
沈黙。
風が吹く。
祠の木が揺れる。
リョウは言った。
「止めないと」
サクヤは刀を腰に差す。
カチン。
静かな音。
「行くぞ」
リョウが聞く。
「どこに?」
サクヤは答えた。
「次の街」
リョウは少し笑った。
「また神堕ち?」
サクヤは歩き出す。
「神祀庁だ」
リョウが目を丸くする。
「いきなり?」
サクヤは振り返らない。
「追う」
「神を回収してるなら」
少し間を置く。
「必ず次がある」
リョウは頷いた。
「確かに」
そして。
小さく呟く。
「……待ってろ」
神祀庁。
世界の神を集める組織。
リョウの胸の奥で、記憶がわずかに疼く。
白い都市。
巨大な施設。
そして――
神を作る場所。
リョウの顔が曇る。
「……嫌な予感しかしない」
サクヤが言った。
「同感だ」
二人は街の門を出た。
壊れた街を背に。
次の戦いへ。
その頃。
遠く離れた山の奥。
巨大な施設の中で。
白い装束の男が報告を受けていた。
「回収数は」
「現在、二十三柱」
男は静かに頷く。
「順調だ」
研究員が言う。
「巨大中枢神の完成には」
「最低百柱必要です」
男は微笑んだ。
「問題ない」
窓の外を見る。
そこには――
巨大な装置。
無数の神の核が埋め込まれている。
男は静かに言った。
「世界を救う神が」
「もうすぐ生まれる」
その中央。
空いている席が一つあった。
そこに書かれている名前。
中枢核
そして。
小さな文字。
リョウ
男は呟いた。
「君が最後のピースだ」
世界のどこかで。
災気が、静かに増え続けていた。




