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第18話 中枢神の記憶


リョウは地面に倒れていた。


呼吸が荒い。手のひらには黒い埃のような災気の残滓がついている。


サクヤがそっと手を差し伸べる。


「しっかりしろ」


リョウはかすかに目を開けた。視界の端に見えるのは、瓦礫と焦げた街の残骸。


「……ありがとう」


声が弱い。だが、その目には決意が宿っていた。


リョウはゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。

街はまだ破壊の余韻を残している。瓦礫の上には数名の市民が恐る恐る顔を出していた。


「……サクヤ」


「何だ」


リョウは空を見上げる。


「思い出した……」


サクヤが眉をひそめた。


「何をだ?」


リョウの視線は遠く、誰も届かない記憶の奥を見つめるようだった。


「俺……中枢神だった」


サクヤの手が少し強く刀の柄を握る。

冷静な声でも、そこに一瞬の緊張が混ざる。


「……またそれか」


リョウは震える声で続ける。


「世界の災気を管理していたのは、俺だ」


「……つまり?」


「神の暴走も、堕ちるのも……全部、俺の監視下にあった」


街の瓦礫の間を、サクヤは歩きながら黙って聞く。

言葉は少ないが、その頭の中で計算が動いている。


リョウは続ける。


「でも……俺は知らなかった。人間は神にすべてを押し付け、災気の量を増やし続けていた……」


「ああ……だから今回の王もあんなに強くなった」


サクヤの言葉に、リョウは頷く。


「人間が抱えきれない不幸を、神が吸収する。平和の代償……」


リョウはゆっくり空を見上げた。


「でももう……神は限界を超えた」


「……それで?」


サクヤが短く聞く。


「だから、俺がやる……」


リョウの声が震える。決意に変わる。


「神を守るんじゃない……終わらせるんだ」


その瞬間、サクヤの目が鋭く光った。


「……本気か」


リョウは頷く。


「神を続けるのはもう無理だ。災気を神に押し付けるんじゃなく、人間が背負う世界にする」


サクヤは刀を握り直す。


「なら……俺は斬るだけだな」


リョウは視線を遠くに送る。

瓦礫の向こう。空の黒雲の向こう。街の外。神祀庁の本拠地。


「……奴らは次に、大規模な人工神を作ろうとしている」


サクヤが小さく息を吐く。


「止めなきゃな……」


リョウは深呼吸し、覚悟を決める。


「行こう。俺が災気を制御する」


「俺は斬る」


二人は視線を合わせる。

過去も未来も関係ない。ただ、やるべきことがあるだけだ。


街の瓦礫の上で、黒い雲が少しずつ晴れ始めた。

だが空の彼方には、まだ見えない影――神祀庁の計画が潜んでいる。


リョウは胸の奥で、かすかに脈打つ赤い光を感じた。


「……次は、世界全体だ」


サクヤは刀を鞘に収める。


「……面倒くさくなってきたな」


リョウは小さく笑った。


「でも……やるしかない」


街の残骸の向こう。遠くに光る神祠のシルエット。

人間と災気の世界が、今まさに動き始めている。


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