第16話 神堕ちの王
街の奥から、巨大な影が歩いてくる。
ズゥン……
ズゥン……
一歩踏み出すたび、地面が揺れた。
高さは十五メートルほど。
普通の神堕ちとは比べ物にならない。
身体は黒い霧の塊。
その中心に、赤い光が脈打っている。
リョウの声が震える。
「……あれ」
「まずい」
サクヤは神堕ちを斬りながら聞く。
「何が違う」
リョウは答えた。
「災気の密度」
王の周囲。
空気が歪んでいる。
まるで重力が強くなったようだ。
「普通の神堕ちは」
リョウは言う。
「壊れた神の残骸」
「でもあれは」
王を指差す。
「災気が集まってできた存在」
サクヤが言う。
「つまり」
「天然の神堕ち」
「そう」
リョウは頷く。
「神がいない世界だと」
「ああいうのが生まれる」
王が止まった。
そして。
赤い目がゆっくりサクヤを見た。
その瞬間。
周囲の神堕ちが一斉に動いた。
ドドドドド!!
群れが押し寄せる。
リョウが叫ぶ。
「指揮してる!」
サクヤは冷静だった。
「王だからな」
刀を振る。
ザン!!
神堕ちが崩れる。
だが。
次から次へと来る。
サクヤが呟く。
「……邪魔だ」
リョウが叫ぶ。
「王の方行くの!?」
サクヤは答えた。
「先に斬る」
そして。
走り出した。
群れの中へ。
最初の神堕ち。
ザン!!
次。
ザン!!
三体。
四体。
五体。
刃が光るたび、黒い霧が弾ける。
だが。
数が減らない。
リョウが後ろから叫ぶ。
「多すぎる!」
その時。
王が腕を上げた。
ズゥン……
空気が重くなる。
リョウの背筋が冷えた。
「……来る」
王の腕が振り下ろされる。
ドォォォォン!!
衝撃波。
通りが丸ごと吹き飛ぶ。
サクヤは屋根へ跳んだ。
屋根が砕ける。
次の瞬間。
王の拳が屋根ごと叩き潰す。
ドォン!!
リョウが叫ぶ。
「サクヤ!」
煙の中から影が飛び出した。
サクヤだ。
そのまま王へ向かう。
一直線。
リョウが言う。
「核ある!?」
サクヤは空中で王を観察する。
胸。
中心。
赤い光。
「ある」
リョウが叫ぶ。
「でも硬い!」
王の身体は災気の嵐。
普通の神堕ちとは違う。
サクヤは地面に着地した。
王が迫る。
巨大な腕。
振り下ろされる。
サクヤは一歩踏み込んだ。
そして。
刀を振る。
ザン!!
王の腕が裂ける。
だが。
すぐ再生する。
リョウが言う。
「再生早い!」
王が咆哮する。
ドォォォォ!!
衝撃波で建物の窓が割れる。
周囲の神堕ちがさらに集まる。
サクヤは小さく息を吐いた。
「……なるほど」
リョウが言う。
「何が?」
サクヤは王を見上げた。
「王を斬っても」
周囲の群れを見る。
「終わらない」
リョウが頷く。
「群れの中心だからな」
サクヤは刀を握り直した。
「なら」
リョウが嫌な予感を覚える。
「何?」
サクヤは言った。
「先に群れを減らす」
リョウが叫ぶ。
「いやそれ何時間かかる!?」
その瞬間。
王が腕を振るう。
サクヤは跳ぶ。
空中で回転。
そして。
王の肩に着地。
リョウが叫ぶ。
「近い!」
サクヤは核を見る。
赤い光。
だが。
災気が厚い。
刃が届くか微妙だ。
王の腕が振り上がる。
叩き潰そうとしている。
リョウが叫ぶ。
「離れろ!」
サクヤは動かない。
ただ。
静かに呟いた。
「……届く」
刀を構える。
王の腕が落ちる。
その瞬間。
サクヤが踏み込んだ。
刃が走る。
「――斬る」
ザン!!
赤い光に亀裂が入る。
王が咆哮した。
ドォォォォ!!
街が揺れる。
だが。
核はまだ壊れていない。
リョウの顔が変わる。
「まずい!」
王の身体が膨れ上がる。
災気が爆発的に増える。
サクヤは王の肩から跳んだ。
地面に着地。
王が怒り狂う。
リョウが言った。
「核が暴走する!」
サクヤが聞く。
「どうなる」
リョウは答えた。
「この街」
「消える」
沈黙。
サクヤは刀を見た。
そして。
小さく言った。
「……なら」
リョウが聞く。
「何?」
サクヤは王を見上げる。
赤い核。
暴走する災気。
そして。
言った。
「次で終わらせる」
リョウが叫ぶ。
「簡単に言うな!」
王が咆哮する。
街の災気が一斉に王へ流れる。
巨大な嵐。
リョウの顔が青くなる。
「……来る」
サクヤは刀を構えた。
「来い」
王が。
街を飲み込む災気の嵐を――
解き放った。




