第15話 神なき街
空が黒く濁っていた。
雲ではない。
災気。
重く、濃く、ゆっくりと街に降りてくる。
リョウはその光景を見て、顔を青くした。
「……多すぎる」
サクヤは刀を握る。
「何が起きる」
リョウは街を見渡した。
祠はある。
だが神はいない。
つまり――
「災気を吸う存在がいない」
沈黙。
そして。
遠くで悲鳴が上がった。
「神堕ちだ!!」
ドォォン!!
建物の屋根が吹き飛ぶ。
黒い影が立ち上がる。
リョウが呟く。
「……一体」
だが。
それだけでは終わらない。
別の通り。
別の広場。
別の屋根。
黒い霧が次々と形を作る。
リョウの声が震える。
「……三」
「五」
「七」
サクヤの目が細くなる。
「増えてる」
リョウが叫ぶ。
「神がいないからだ!」
災気は本来、神が吸う。
だが今は違う。
街中に溢れている。
その歪みが。
人の絶望が。
形を作る。
神堕ち。
リョウが言った。
「これ」
「神の残骸から生まれてる」
サクヤが聞く。
「残骸?」
リョウは頷く。
「祠の神ってさ」
「長い時間この街にいる」
「災気を吸い続ける」
少し言葉を選ぶ。
「だから」
「壊れると」
街を見る。
「種みたいなのが残る」
サクヤが呟く。
「それが芽吹いた」
「うん」
リョウは言った。
「神がいないと」
「一気に」
その瞬間。
ドォォォン!!
近くの家が崩れた。
黒い影が現れる。
人型。
だが歪んでいる。
リョウが叫ぶ。
「来た!」
神堕ちが二人を見た。
赤い目。
次の瞬間。
突進。
サクヤが一歩前に出る。
刀を抜く。
キィン。
神堕ちが腕を振るう。
ドォン!!
サクヤは半歩横へ。
そして。
一閃。
ザン!!
神堕ちの胴が裂ける。
黒い霧が噴き出す。
だが。
崩れない。
リョウが言う。
「弱いけど」
「数が多い!」
その時。
後ろから影。
もう一体。
リョウが叫ぶ。
「後ろ!」
サクヤは振り向かない。
刀を逆手に持つ。
振る。
ザン!!
背後の神堕ちが崩れる。
サクヤは言った。
「数なら問題ない」
リョウが叫ぶ。
「問題あるだろ!」
その瞬間。
通りの奥。
黒い影がいくつも動いた。
十。
二十。
三十。
リョウの声が震える。
「……群れ」
神堕ちが集まり始めている。
サクヤはそれを見て、小さく息を吐いた。
「……多いな」
リョウが言う。
「逃げる?」
サクヤは首を振る。
「街の中だ」
周囲には家。
人。
逃げ遅れている住民もいる。
サクヤは刀を構えた。
「ここで止める」
リョウは空を見た。
災気はまだ降っている。
「終わらないぞ」
サクヤは答える。
「なら」
神堕ちの群れを見る。
「全部斬る」
リョウは苦笑した。
「それ好きだな」
その瞬間。
神堕ちの群れが一斉に動いた。
ドドドドド!!
通りを埋め尽くす黒い影。
サクヤが走る。
最初の一体。
ザン!!
次。
ザン!!
三体目。
四体目。
刃が光る。
神堕ちが次々崩れる。
だが。
数が減らない。
リョウが呟く。
「……湧いてる」
別の通りからも。
路地からも。
影が現れる。
サクヤが斬る。
また斬る。
それでも。
まだ来る。
リョウの胸がざわついた。
この光景。
どこかで見た気がする。
災気。
神がいない街。
そして――
崩壊。
リョウの目が見開く。
「……思い出した」
サクヤが斬りながら言う。
「何だ」
リョウは空を指差した。
「これ」
「昔もあった」
サクヤが聞く。
「いつだ」
リョウの声は小さかった。
「神が生まれる前」
沈黙。
リョウは続ける。
「昔の世界」
「神がいなかった時代」
街を見る。
神堕ちの群れ。
壊れた建物。
逃げる人々。
リョウは言った。
「世界は」
「こうだった」
サクヤの剣が止まることはない。
だが。
その言葉は、確かに胸に刺さった。
リョウは呟く。
「だから人間は」
「神を作った」
サクヤが聞く。
「災気を吸わせるためか」
「うん」
リョウは言った。
「でも」
空を見上げる。
黒い災気の雲。
「神がいなくなると」
「世界は元に戻る」
その瞬間。
地面が揺れた。
ズゥン……
リョウの顔が変わる。
「……来る」
サクヤが神堕ちを斬りながら聞く。
「何が」
リョウは通りの奥を見た。
黒い霧が、巨大な塊になっている。
今までの神堕ちより。
はるかに大きい。
リョウの声が震える。
「……王」
サクヤが聞く。
「何だ」
リョウは言った。
「神堕ちが集まると」
「強い個体が生まれる」
黒い霧の中から。
巨大な影が立ち上がる。
高さは十五メートル。
歪んだ神の姿。
赤い目。
リョウが呟いた。
「……神堕ちの王」
サクヤはそれを見上げた。
そして小さく言った。
「なるほど」
刀を握り直す。
「強そうだ」
リョウが叫ぶ。
「感想それ!?」
巨大な神堕ちが。
ゆっくり街へ歩き出した。




