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第11話 神の消えた街


門を越えた瞬間、空気が変わった。


リョウは思わず顔をしかめる。


「……うわ」


街の空気が重い。


まるで見えない霧が充満しているようだった。


サクヤはすぐに理解する。


「災気」


リョウが頷く。


「しかも」


周囲を見回す。


「かなり濃い」


街の通りは混乱していた。


人々が荷物を抱えて走っている。


店は閉まり、窓は板で打ち付けられている。


遠くで悲鳴が聞こえた。


「神堕ちだ!」


「逃げろ!!」


リョウの背筋が冷える。


「……もう出てる」


サクヤは静かに歩き始めた。


刀はすでに抜いている。


リョウが横に並ぶ。


「場所わかる?」


「わからない」


「だろうな」


リョウは目を閉じた。


集中する。


さっき森で感じた感覚。


神の位置。


災気の流れ。


世界の歪み。


そして――


祠。


胸の奥がざわつく。


リョウはゆっくり目を開けた。


「……三つ」


サクヤが聞く。


「何が」


「神堕ち」


リョウは指をさした。


「北の広場」


「市場通り」


「あと……」


少し遠くを見る。


「祠」


サクヤの目が細くなる。


「祠にもいるのか」


「うん」


リョウは言った。


「でも」


「変なんだ」


サクヤが歩きながら聞く。


「何が」


リョウは首をかしげる。


「神堕ちって普通」


「祠の神が壊れてなるんだろ?」


「そうだ」


「でも」


リョウは祠の方を見る。


「祠の神はもういない」


沈黙。


サクヤもそれに気付いた。


「……つまり」


リョウが言う。


「別の神が堕ちてる」


その瞬間。


ドォォォン!!


近くの建物が崩れた。


リョウが振り向く。


「市場通りだ!」


サクヤは迷わなかった。


「先にそこだ」


二人は走り出す。


市場通りに近づくにつれて、悲鳴が大きくなる。


人々が逃げてくる。


「助けて!」


「神が!」


角を曲がった瞬間。


それは見えた。


巨大な影。


屋根の上に立っている。


人型の神。


だが身体は歪み、黒い霧が溢れている。


リョウが呟く。


「……神堕ち」


その神はゆっくり腕を振り上げた。


下には人がいる。


子供。


逃げ遅れている。


サクヤが言う。


「下がれ」


そして。


地面を蹴った。


屋台を踏む。


壁を蹴る。


一瞬で屋根の高さへ。


神がサクヤを見た。


腕を振るう。


ドォン!!


だが。


サクヤはすでに背後にいた。


刀が走る。


ザン!!


神の背中が裂ける。


黒い霧が噴き出す。


神が唸る。


だが。


リョウの顔が曇った。


「……変だ」


サクヤが神と距離を取る。


「何が」


リョウは神を指さす。


「弱い」


サクヤも気付いた。


さっきの神より、明らかに弱い。


動きも鈍い。


再生も遅い。


サクヤは呟いた。


「……出来損ない」


神祀庁の男の言葉が頭をよぎる。


研究。


サクヤの目が鋭くなる。


神が再び襲いかかる。


サクヤは一歩踏み込む。


「終わりだ」


刀が光る。


「――斬る」


ズバン!!


神の首が飛んだ。


巨大な身体が崩れる。


黒い霧が空に消えていく。


市場通りに静寂が戻る。


人々が呆然と見ている。


リョウが小さく息を吐く。


「……助かった」


だが。


すぐに顔を上げた。


「サクヤ」


サクヤも同じ方向を見ていた。


祠の方。


空気が歪んでいる。


リョウが言う。


「……でかい」


サクヤが聞く。


「神堕ちか」


リョウはゆっくり首を振る。


「違う」


沈黙。


リョウは祠の方向を見たまま言う。


「神が」


「いる」


サクヤの目が細くなる。


「消えたんじゃないのか」


リョウの声は低かった。


「うん」


「でも」


ゆっくり言う。


「今」


「戻ってきた」


風が吹いた。


遠くの祠の上。


黒い霧が渦を巻いている。


その中心に。


光が生まれた。


リョウの背筋が冷える。


「……あれ」


サクヤが聞く。


「何だ」


リョウは言った。


「神」


少し間を置く。


「でも」


目を細める。


「祠の神じゃない」


サクヤが刀を握る。


「つまり」


リョウは静かに言った。


「誰かが神を置いた」


その瞬間。


祠の光が弾けた。


ドォォン!!


巨大な影が立ち上がる。


街の中心で。


新しい神が生まれた。

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