↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その光が落ちるまでは、隣りにいてください  作者: レンジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/11

第3話

 「ふうー。涼しいね」


 「うん。ここらへん初めて来たかも」




 駅の近くだから、行こうと思ったらいつでも行けた、どこにでもあるカフェ。そこが、こんなに涼しくて、落ち着いた音楽が流れてるなんて知らなかった。




 「それでさ……どうして後ろ乗れとか言ったの?」


 「いや……いいじゃんそれはもう……」


 「えー。気になるよ」




 向かい合わせの小さな机に座ると、早速朱莉は顔を近づけて尋ねてくる。その仕草にはどこかいたずらっぽさがあって、気をつけないとうっかり、思いっきり頭を撫でたくなってしまう。


  


 「……ほんと、そういう所あるから後ろ乗せたくなったんだよ」


 「だから何が?」




 朱莉はまだまだ気になっているみたいだったけど、ちょうどそこで飲み物が置かれた。




 「うわぁ……なにそれ?」


 「えっと……キャラメルラテ」


 「ふーん。斗真くん甘党なんだ」


 「まあ、昔っから変わんないだけだよ」


 「うん」




 朱莉は、いつものように、宝石みたいな目を細めると、ポツリと言った。




 「よかった。変わってなくて」




 どう答えたら良いのかわからなくて、目をそらしてストローに口をつける。


 


 ――カシャッ


 


 「……っな、だから写真撮るときは……」


 「ごめんごめん。だけど……」


 


 朱莉は、ちっとも悪びれずに笑いながら、傷だらけのカメラを眺めて言う。




 「今の斗真くん、すごくかっこよかったよ」


 「……やめてよ。困るじゃん」


 


 どう反応したら良いのかわからない。「かっこいい」って、その一言で、無意識に先輩や後輩、学校の人まで引き合いに出して劣等感に駆られてしまう。それなのに朱莉に言われるとどうしてだろう、誰かと比べるんじゃなくて、僕自身に言ってくれてるんだって直球で伝わってくる。等身大の思いが、そのままぶつかってくるみたいな感じで、むず痒いのに、ずっと抱えていたいくらい嬉しい。




 「朱莉は何か飲まないの?」


 「私はお金ないし、それにダイエット中だから」


 「そっか。無理すんなよ」




 冷たいラテを一気に吸うと、口いっぱいに甘い香りとキャラメルのコクが広がっていく。今度はちゃんとカメラを見て、思いっきり笑顔を浮かべてみる。


 カシャッ カシャッ




 「うん。すごく良いよ」


 「そっか」




 それをどう使うとか、逆にネットにはあげないでとか、そんなのを言う気にはならない。言わなくて良いような気がする。


 喉を冷たさが通るたびに、さっきまでのうだるような暑さが消えていく。それが、生まれ変わったみたいに爽快だった。




 「朱莉はいつまでこっちにいるの?」


 「うーん、夏休みが終わる頃には戻らないとだから……あと一週間くらい?」


 「そっか。いつか、おばさんたちにも挨拶行っときたいから、また伝えといてよ」


 「うーん……難しいかも、二人とも忙しいみたいだから」


 「あー……そっか。ありがと」




 しばらくの間、沈黙が続く。


 店内に流れる、オルゴールの音が、やけに大きく聞こえた。


 ちょっと前にヒットした曲ばかりで、ここも時間がその時に止まっているみたいだ。そんなこと考えると、なぜだか笑えてきてしまった。




 「何笑ってるの?」


 「何でも」


 「ふーん」




 彼女は、目を細めて笑っていた。


 そのまつ毛は、触れてみたくなるくらい長くてきれいで、こっちまで笑顔になってしまう。


 向かい側の窓から西日が差して、彼女の髪がオレンジ色に染まると、不意に、この時間もずっと止まってしまえばいいのにと思ってしまった。


 


 朱莉と一緒にいる。ただ、それだけで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。