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仏様からの贈り物④

 富子は末期的な二日酔いだった。

 平日のど真ん中にもかかわらず客に誘われるがまま二軒三軒とハシゴして、意識もままならぬ状態で帰宅したのは午前七時過ぎ。娘の美子の登校時間に間に合ったものの、食パンを焼くのが精一杯で、それでもどうにか学校へと送り出してそのまま着の身着のままべッドへ。シャワーなんて浴びる気力はなかったし、できることなら出勤時間ギリギリまで眠っていたかった。

 しかし玄関のほうから聞こえてくるその断続的な音は、富子の眠りを見事なまでに妨げた。最初は無視を決め込んでいたが、いつまで経ってもゴンゴンとその音は鳴り止まないし、一度気になり始めると体は眠りを求めていても、意識がその音を無視できなくなっていた。

 ベッドから身を起こした富子は「誰なの、いったい」と独り呟き、重たい体を引きずって寝室を出て玄関に向かった。その間も玄関のほうからは断続的にゴンゴンと音が聞こえてきていたので、「どちらさま?」と彼女はリビングから玄関に向かって声をかけてみた。 が、その問いかけに対してはなんの反応もなく、玄関に立つとまたゴンゴンと扉の向こうから音が聞こえてきた。

 富子はドアノブを握り、そのまま押し開けようとした。鍵はかかっていなかったから、

それで扉は開くはずだったが、少しだけ隙間が開いたかと思うと押し戻されるように扉は閉まった。

「なんなのよ、もう」富子は堪らず扉に向かって言った。「誰だか知らないけどいい加渡に

しなさいよ、ふざけるのは」

 富子の怒りが伝わったのか、扉の向こう側は一瞬だけ静寂に包まれた。でもすぐにまた

ゴツゴツと音が鳴り始め、同時にブツブツとなにやら念仏でも唱えているような声が聞こ

えてきて、さすがの富子も気味が悪くて後ずさり、部屋へ引き返そうとした。すると、扉の向こう側から「母の様子がおかしいんです」と誰かが富子に話しかけてきた。

「話しかけてもなにも答えてくれないし、仏壇を抱きかかえたままブッブッブッブツなにか言ってるんです」

なんだ、後上のおばあちゃんか。

 と、その声を聞いてそこにいるのが506号室の後上の親子だとわかって、とりあえず富子はほっと一息つくも、扉の向こう側の状況はそれだけではわからなかった。後上のおばあちゃんの様子がおかしいのはいつものことだし、話しかけてもなにも答えてくれないことも珍しくはない。でも仏壇を抱きかかえながらブツブツなにか言っているとはどういうことなのか、というよりどこぞの仏壇がなんてうちの玄関の外に置いてあるのか。扉が開かない以上外の様子がまるで見えない富子にしてみれば、そんなわけのわからない話を扉越しにしてくる桜子の様子も十分おかしかった。

 母親の介護疲れで頭がおかしくなり、じつの娘が殺人を犯してしまうようなニュースがあとを絶たないこのご時世、下手に扉を聞けようとするのは危険かもしれないと思った富子はそっと扉に鍵を閉め、「とりあえず管理室に電話するわ」と扉越しに声をかけた。

「もうすぐ娘も帰ってくるし、いつまでもそこにいられても困るから。いいわね?」

 そう言って富子は相手の返答を待たず、地下の管理室に電話をかけるためリビングヘ戻っていった。

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