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仏様からの贈り物②

 後上桜子が「母さんの病状が悪化している」と弟の菊次郎から相談を受け、母親と同居し始めたのは十年ほどまえのこと。六十歳を目前に夫を病で亡くし、行く当てのない彼女は看取ったら506号室を相続することを条件に、母親の介護をすべく大川マンションの住人になった。二度目の出戻りだった。一度目の離婚の際は実家に出戻って家業を手伝い始めた彼女のことを、巷では相続狙いなんじゃないかとかなんとか噂されていたが、さすがに実家もなくなり、家業である「花大」もすでに廃業していたとなるとそんな噂も立つことはなかった。|

 彼女の実家「花大」は戦後間もなくここ花町で花屋を始め、弟の菊次郎で三代目になる

はずだったが、配達中の事故で父親が亡くなったとき彼は隣り町の旅篭町にある葬儀屋「とみた」に勤めていた。そこの一人娘である富田花恋と交際中で、その仲は花恋の両親も公認の仲だったから、取引先にもかかわらず半ば跡取り息子のように重宝され、菊次郎自身もその待遇にまんざらでもなく、いずれは後上家の長男として実家を継ぐ立場であることはわかっていながらも、臭い物に蓋をするように父が亡くなるまでそのことは頭の片隅に追いやって考えないようにしてきた。「ちゃんとした商売をするにはまず外の世界を知ること」と、父に言われるがまま取引先である「とみた」に就職したばかりのときは常に頭のど真ん中にそのことがあったし、葬儀屋なんて花屋と同じくらい気が滅入るわと思っていたけど、花恋と付き合うようになって富田家に甘やかされ始めると、だんだんとその考えも変わっていった。気が滅入る仕事であることに変わりはなくとも、時代や季節に左右される花屋と違って人が生まれりゃいつかは死ぬ以上、葬儀の数が減ることはない葬儀屋のほうが安定的だし(花恋の父親の受け売りだった)、それに何より頑固で昔気質な自分の父親より娘に甘い花恋の父親相手のほうが気が楽だった。

 花恋の父親である富田優は実家の総菜屋が近所の葬儀に仕出しをしていたことから着想

を得て一代で葬儀屋を始め、和洋折衷の葬儀専門の仕出し屋から喪服のレンタルそれに喪主の代行サービスにはたまた葬儀のサクラの手配までと、手広くビジネスを展開している起業家らしく、葬儀屋はあくまで手札のうちの一つに過ぎないと思っていた。菊次郎のことも「未来の跡取り息子」などと冗談めかして言いながらも、それはあくまで愛する娘の恋人だからであって、是が非でも自分の後継者にと思うほど彼のことを評価しているわけではなく、強いて興味があるとすれば彼自身よりも彼の実家である「花大」のほうが興味があった。

 菊次郎を雇い入れたそのときから富田優は「花大」を手に入れる算段をしていた。原価の高騰に購買層の減少と時代の変化とともに、「花大」の業績が芳しくないのは取引先である以上知ってはいたが、葬儀屋である自分なら持ち直せる自信はあったし、そこにきて娘が「花大」の跡取り息子と付き合い始めたとなれば、起業家としてこれをチャンスと思わないほうがおかしいと、密かにそのタイミングを窺っていたのだ。あとは然るべきそのときがくるのを待つだけだと。それがまさか不慮の事故で菊次郎の父親が亡くなることだとは彼も思ってはいなかったが、それからしばらくして「姉がまた結婚するみたいで」と跡取りを狙っていると思われていた長女が実家を出ていき、母から実家に戻ってくるよう言われたと菊次郎に相談されて黙っているようなタマではなかった。

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