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仏様からの贈り物  作者: 夜更けの人々


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仏様からの贈り物①

 その日、大川マンション805号室の扉のまえに仏壇が置いてあった。

縦幅八十センチ横幅奥行が四十センチのブラックボックス。いつ、だれがそこに置いていったのかは神ならぬ仏のみぞ知るところだったが、そんなものがぽつんと置いてあったら嫌でも目につくし、徘徊中の後上のおばあちゃんが足を止めるのも無理はなかった。

 大川マンション506号室の住人である後上のおばあちゃんこと後上花枝は、同居している娘の桜子の目を盗んで部屋を抜け出し、マンション内を徘徊するのを日課としていた。 今しがた自分が出てきた部屋がどこかわからなくなってしまい、その部屋を探し求めて仿徨い歩き、手当たり次第にドアノブを回しては鍵がかかっていない部屋に侵入する。

  昭和の名残がまだ残っているせいか、大川マンションでは住人の大半が家の鍵を閉めていなかった。花町で最初に建てられたマンションだったけど、マンションとは名ばかりでそれは長屋が縦に積まれたようなもので、総世帯数が百以上あったにもかかわらずエレベーターで顔を合わせれば、大抵は何階の誰々さんちの人って子どもでもわかった。醤油を借りにお隣さんちへなんてことは、大川マンションの住人にしてみれば日常茶飯事だった。

 そんな環境下にありながら、後上のおばあちゃんの突然の訪問にはいつも住人の誰もが肝を冷やした。チャイムも鳴らさずドアノブを静かに回し、そっと室内に侵入してくるその訪問は手慣れた空き巣さながらで、その隠居した旅館の女将のような佇まいに気づいた瞬間、後上のおばあちゃんのことを知っている人でも声を上げて驚かずにはいられなかった。いくら知った顔でも、そこに突然着物姿の老婆が立ってたら当然だ。ただあまりに部屋の中に溶け込んでしまうもんだから、住人がその存在に気がつくまえに後上のおばあちゃんが出ていってしまうことも珍しくはなく、そこまで本人が意図してやっているかはさておき、入ってくるときも出ていくときも物音一つ立てないのが彼女の流儀ではあった。

 しかし806号室の扉のまえに仏壇が置いてあったあの日、806号室の鍵が開いているにもかかわらず、後上のおばあちゃんは部屋に侵入しようとはしなかった。扉のまえに仏壇があって入れないというのも理由のうちの一つではあったが、そこにある仏壇を目にした瞬間から後上のおばあちゃんの意識は仏壇に向けられていたから。

 先祖代々そして亡き夫が祀られている仏壇、そしていつしか実家もろとも姿を消してしまった仏壇。それが今、自分の目のまえにある。そう思うと、後上のおばあちゃんは居ても立っても居られず、仏壇に両手を回した。でも仏壇はどうともせず、それでも諦めない

で何度も持ちあげようと試み、そのたびに仏壇の背は806号室の扉にごつごつとぶつかり、その音は八階の廊下から階段伝いに各階へと響き渡って、五階の廊下にいた娘の桜子の耳にはなにやら不吉なことを告げる鐘の音のように聞こえた。

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