第七層 隠し通路の罠
エレベーターが、普段は止まらない高層階へと静かに上昇していく。
扉が開いた先にある“本社・経営戦略室”は、下層の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
高価な絨毯が、足音を完全に吸収している。
ここは現場の労働力が生きる場所ではない。
ドス黒い権力と思惑が絡み合う、見えない蜘蛛の巣の領域だ。
【派閥という名の呪縛魔法】
部屋の奥には二人の役員がいた。
経営戦略室トップの常務。
そして、その対面に座る専務側の部長。
「――よく来たね。君が下層で面白い業務効率化を進めていると聞いている」
常務が、値踏みするような視線を向けてくる。
これは単なる評価面談ではない。
社長の後継を巡る派閥争いの一端だ。
常務派と専務派。
会社そのものを巻き込む内部戦争。
「どうだろう。君のそのハック能力、私のプロジェクトで使ってみないか」
甘い誘い。
だがこれは宝箱ではない。
人を飲み込む罠――ミミックだ。
ここで頷けば常務派。
拒めば即座に敵認定。
どちらを選んでも、片側に潰される構造になっている。
【攻略者の不可視モード】
私は二人の間にある“温度差”を観測する。
これは会話ではない。
力の探り合いだ。
「身に余るお話です」
静かに言葉を返す。
「ただし私の手法は特定部署向けではなく、全社共通の効率化基盤として設計しています」
「……ほう?」
常務の目が細くなる。
「つまり、私の誘いを断ると?」
空気がわずかに重くなる。
だが、想定内だ。
「いえ」
私は続ける。
「専務側の営業データも含めて解析した結果、全社導入で約二千万円の純利益が見込めます」
一拍置く。
「この件は、常務・専務双方を巻き込んだ共同プロジェクトとして提案予定です」
【蜘蛛の巣のハック】
沈黙が落ちる。
これは拒絶でも迎合でもない。
“全員を巻き込む構造”への書き換えだ。
どちらか一方の手駒になる選択肢を消す。
代わりに残すのは、
利益という名の逃げられない共通項だけ。
派閥という鎖は、ここで機能を失う。
【リザルト:中立地帯の確立】
「……フッ、大したものだな」
常務が短く息を吐く。
「その形で進めよう」
書類にサインが入る。
エレベーターで下層へ戻る途中、
社内システムの通知が更新される。
『権限更新:全社共通プロジェクト・特別アナリスト』
役職が変わったわけではない。
だが扱いは、もはや単なる平社員ではない。
第七層、攻略完了。
だが同時に理解する。
これは昇格ではない。
“監視対象の格上げ”だ。
そして、この動きが、
迷宮の最深部にいる本当の意思へと繋がっていく。
読んでくれた方ありがとうございます
誤字、脱字などの不自然な文章があれば、指摘お願いします
他の作品も読んでくれたら、嬉しいです
面白いと感じたら、評価やブックマークお願いします




