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決別の刻

決別の刻


アグリとその部下達は焼きが入ったばかりのゴミ収集場へ閉じ込められている。その上で監視ついでと、その日の夜、従業員も客も関係なく盛大なお祭り騒ぎを開始した。

従業員は滅多にない行事に浮かれて飲んで騒いでの荒れ放題。参加はしているが国の威厳を護ろうと静かに飲み続ける兵の姿が少数で、従業員に混ざりバカ騒ぎをする兵が大多数。蛍の弁明により追放を免れ正式に従業員として採用されたグレイもその中にいた。

当然、この日掛かる料金は全て、【ナレッジラウ】が払う。

そして、ノーリッジは――。

『結果的に姫様を危険に曝し、国を裏切るような形を取ったのは事実、私も処罰を受けさせていただきます』

頑なに自分の罪を背負い、この世界での食べ物を口にしてアニメの姿に戻ると、ローヤルによって腕と足を縛られ軍艦の一室に閉じ込められた。その時のムイは悲しさを隠し王女として貫いていたが、その後隠れて泣いている所を見つけられメイが付き添っている。

そして、火村蛍は――。

メイクスの姿では酔っぱらいの近くにいるのは危険と、池の傍で一人考えに耽っていた。

     ◆◆◆◆◆

闘いが終結してから蛍はローヤルに近づき、尋ねた。

「姫に会わせてもらえないか?」

それは一つの答えを見つける為、

「くっ、もうすでにお会いになっているだろっ!」

そう言われた蛍は周りにいた人間の視線の先を追い、その人物を見つける。その小学生にしか見えない風貌の少女は目を輝かせていた。

「王子さま」

幼いとは聞いていた蛍だったが、ここまでとは思っていなかったらしく、頬を引きつかせた。

蛍が戸惑っている内に、

「王子様って、ぷぷっ」

「ほ、ほら、ホタル馬に跨りなさい、くくくっ」

「しかし、間近でみるとすごい存在感だな」

「確かにじっと見てると気持ち悪いわ」

サンとホムラの何気ない一言に実は傷つきながら、まだ近くに感じる視線に蛍が視線を向ける。しかし、もっと苦手な雰囲気でムイが今度は憧れの眼差しで見上げられ、また戸惑った。

だが、今度は、

「あ、えーと、おほん。(わたくし)は【ナレジラウ】王女、テリーティ・ムイと申します。あなたに会えることをお待ちしておりました」

王女モードへ変更したムイが丁寧な物腰で挨拶をする。それに年齢だけで言えばお兄さんになる蛍も挨拶をし返した。

「初めまして、火村蛍です」

ぎこちなく年下相手に固い自己紹介をすると、ローヤルがムイの前に立った。おそらくムイに近づけたくなくてそういった行動をとったのだろう。

アニメ姿の頃の蛍だったらその態度にイラつきを覚えただろうが、今はどことなくほっとする。それは自分には似つかわしくない雰囲気に耐えられなかったのと、メイクスとしての現象の二つから解放されたからだ。

「こら、ローヤル前が見えない」

ムイに叱られてもその場からは絶対に離れないと言った睨み付けをあいながら、ムイの一言で会話が前進する。

「私にお会いしたいと聞こえたのですが、」

「え、あ、ああ」

本来なら自分から進めるべき話しに情けなさを感じながらも、全てはこの時の為、恥じらいなど捨て蛍は頭を下げた。

「君の国にある。メイクスの絵本の原本をみさせてほしい」

困ったようにムイはローヤルを見上げ、首を振られるとその目は王女の物に戻る。

「ごめんなさい。それはできません」

蛍はその回答の理由を予測できた。原本は盗み出された書物と同様、あの国に大きくかかわる書物だからだ。それはノーリッジの昔話からも推測できる。

そして、そこから必死になって食い下がることもできたホタルだったが、

「そうか」

それだけで引き下がった。

それに驚いたのは帰るために頑張っていた姿を見てきた従業員、そしてローヤルだった。

「貴様、それでいいのか?」

意外なローヤルからの疑問に、蛍が言えるべきことは一つ。

「予想はしてた」

その言い草にその場で見守っていた従業員、ローヤルは違和感を覚える。その意味を知るためにもローヤルの追及は終わらない。

「本を見ることに、ではないな」

蛍は仕方なそうに答える。

「ノーリッジさんに昔メイクスに会ったことがあるって教えられた。その時から気付いてはいたんだよな。会話の中にメイクスの姿に戻る方法は出てたけど、元の世界に帰る方法については会話を避けてたから」

あの時ノーリッジが必要としていたのは蛍の協力。あの場で現実への世界へ帰る方法がないと言えば、蛍の行動は変っていたからかもしれない。それを蛍も同じ気持ちだったから、あの場では聞けなかった。

「だから、ノーリッジさんの研究では俺は帰れない。で、絵本の原本っていっても、それってそのメイクスの事が書かれた事だろ。ってことは、その元になるメイクスに会っているノーリッジさんが辿り着けなかったってことは、見ても意味ないなって」

それでも蛍は何かを知るためにムイに絵本の原本を閲覧しようとした。その理由を知るためにムイが訊く。

「何を知りたいんですか?」

「今さらだけど、俺は絵本すら見てない。たぶんこれからも見ることはないと思う、でも絵本の最後は知りたい。君も読んだことあるよね?」

「さっきから君、君と貴様っ」

「ローヤル、今はそんなことどうでもいいよ」

「し、しかし……」

「絵本は私が描いたものなので知っています。それに原本というのは、メイクスがこちらの世界で過ごした日記のようなものです。その中の最初の方だけを絵で描きました」

絵本の原作者がムイだったことに周りが驚いた様子だったが、王族しか読めないとローヤルから聞いていた蛍に驚きは少ない。実際は、誰が描いていようと関係が無かったからだろう。

「それで?」

「絵本では、メイクスがこちらの世界での姿になって幸せに暮らして終わっています」

原本を求めながら、絵本すら見る勇気がなかった蛍はすでに覚悟を決めて尋ねている。そして、次もまた。

「じゃあ、原本の最後だけ聞かせてくれないかな?」

すでに答えは出ている。だが、それを聞かない限りは諦められない。逆に言えば……。

「それだけでしたら……」

子供ながら頭が良すぎるからこそ、蛍が欲している答えが分かり、言い辛かったのだろう。そのまま沈黙してしまう。

「教えてくれ」

「……うん」

思わず子供の口調に戻ってしまったムイは言う。

「日記の最後はメイクスが寿命を真っ当して亡くなるの」

つまり、そのメイクスも元の世界に戻ることはできなかった……ということだった。

誰もが気づく、蛍が帰る方法はなかった、と。

そして、誰も何も言えない。

そんな静けさを破れるのは蛍しかいなかった。

「そうか、わかった。ありがとう」

強がりだった。蛍自身も周りにいる誰もが分かっている。でも強がりは吐けた。だったら、周りはその行為を受け取り、冗談なんかを言って場を和ませればいいと思う。

だが、

「悪い、ちょっと、その辺、に、いるわ」

強がりは強がりでしかない。

蛍の顔から流れ落ちるそれを見たら、誰もがそっとしておくことでしか優しさを与えられなかった。

蛍は一人になってから、放置され続け残り充電量を一本と表示される携帯電話を開く。

その日付は八月三十一日。

最初に帰る為に目標に掲げた日付。

その期限が来てしまったいた。

だから、蛍はしなければいけない決別を前にして、たったそれだけの確認をし終えた。

     ◆◆◆◆◆

――終わった。

過去を振り返るのはこれで最後だった。

生きていくならば、前を向かなければならない。

その場で立ち上がった蛍は正式にマザーに会いに行こうとした。

すると、

「結論は出たのかい?」

「うわっ、びっくりしたぁ」

いきなり人の数倍もあるおばさんが現れて驚いた。

「見張ってたのかよ。趣味悪いぞ」

「ふん、生意気言ってんじゃないよ。で、どうするんだい」

「決めたよ」

そう言った蛍の手には小さな、アニメの世界の木の実が握られていた。

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