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3: 決勝戦

ヨーロッパ予選、フランスチームの新星シャルル・ブルーノが圧倒的な勝利を収める。

そして決勝戦――ウクライナ代表の悲痛な過去が明かされる中、シュタインズの若き戦士たちが伝説の神々を召喚する。

ハインツが密かに警戒する「あの人物」とは誰なのか。

伝説と伝説がぶつかり合う、決勝戦の幕が今、上がる。


第三話 決勝戦

【 ヨーロッパ予選 ―― フランス vs オランダ 】

「中継です! この瞬間――フランスチームのシャルル・ブルーノ選手、カードを三枚同時に投入します!」

フラッシュのごとく弾ける光の中で、三人の人物が戦場に降臨した。

「AI同期化――シャルルマーニュ、ローラン、そして……ナポレオン!」

ナポレオンは戦場の西側で騎兵隊の陣形を整え、シャルルマーニュは中央で兵站網を強化し、長期戦を誘導した。ローランは右翼から単独で突入し、防衛線を揺さぶった。

オランダは為す術がなかった。リュッテン将軍AIとエラスムス・アルゴリズムが配備されていたが、機械的な分析によって動く戦術は、フランスの戦闘美学の前で揺らぎ始めた。

シャルルマーニュのフィールド歪曲スキル「聖域幾何」が、オランダの戦術パターンを無効化した。ローランは盾を振るって陣形を切り裂き、ナポレオンはドローン騎兵隊を率いて左翼を瞬く間に殲滅した。

「攻撃は計算によって、勝利は芸術によって」

ナポレオンの声がスピーカーに響くや否や――総攻撃。

戦場全体が電子衝撃波で震動した。陣を崩されたオランダのAIたちは、左右から次々と撃破されていった。スコアボードがあっという間に赤く染まった。

電光掲示板に結果が映し出された。

フランスチーム、完勝。三位確定。


【 ベルリン ―― ハインツの居間 】

ハインツは静かな居間で大型スクリーンを見つめていた。花火の音が窓の向こうから響いていたが、彼は微動だにしなかった。

「シャルル・ブルーノ……見覚えのない人物だな」

彼は静かにマグカップを置きながら呟いた。

「シャルルマーニュとナポレオンか……旧時代の遺産ではあるが、こいつは違った扱い方をしている」

彼は席から立ち上がりながら、静かに笑った。

「面白い。変数が一つ増えたな」

彼は脇の卓に置かれた端末を起動し、次の試合を控えたチームの名簿に目を走らせた。

「ウクライナ代表……アリーナ・ソコロワ、ユリアン・グランツ、そして……」

彼の手が止まった。眼差しがわずかに揺らいだ。

「……あの人物が、あのチームにいるだと?」


一方、試合が終わった戦場。

シャルル・ブルーノは照明がまだ消えきらぬうちに携帯電話を手に取った。

「ルネ・ハート様、完勝です。オランダは予想よりも弱かった」

受話器の向こうから、ルネ・ハートの明るい声が聞こえてきた。

「おめでとう、シャルル。ルイ・ル・グラン高校出身でグランゼコールを卒業した数学の天才が我々のチームにいるなんて……本当に頼もしいよ」

シャルルは短く笑い、戦場を振り返った。皇帝たちと伝説が消えた跡には、勝利の残骸だけが残されていた。


【 決勝戦前日 ―― ベルリン市内 】

ハインツは静かなカフェの一角で、パウル・フォン・ヘルツと向かい合っていた。古い貴族家門の末裔で、コンピュータ工学の学位を手にシュタインズの門を叩いた人物だった。

そしてその隣には、イタリア系秘書のジュゼッペが慎重に佇んでいた。七十三歳の老紳士。シュタインズで長年ハインツを補佐してきた人物だった。

ハインツはジュゼッペを見つめながら淡々と言った。

「明日から秘書を替えます。退職金はお望みのままお支払いしましょう」

ジュゼッペの顔がこわばった。

「ハ、ハインツ様……何をおっしゃって――」

「残念ながら、解雇となります、ジュゼッペさん」

彼は首をわずかに傾げて、言葉を続けた。

「シュタインズCEOの専属秘書を務めるには……まず若くなければならない」

ジュゼッペはそれ以上何も言えず、静かにその場を去った。

しばらくして、整ったスーツを身にまとった若い女性がテーブルの前に立った。動きは過度なまでに正確で、眼差しに感情の波はなかった。

「身元認証、完了いたしました。本日より秘書職を引き継ぎます」

ハインツは微笑みもせず頷いた。彼女の名はエレナ。人間ではなかった。シュタインズが自社開発したAI秘書のプロトタイプで、どんな人間よりも正確に業務を処理した。

「やはり……AIの方がましだな」


【 決勝戦当日朝 ―― シュタインズ控室 】

ベルリンの空は快晴だった。競技場周辺は人波で賑わい、報道ドローンが赤いフラッシュを焚きながら空を駆け回っていた。

ハインツは窓辺に立ったまま、静かに言った。

「オットー……よろしく頼む」

オットー・フリッツルは深々と頭を下げて答えた。

「ハインツ様……今回の決勝戦で私を主戦として起用してくださり……心より感謝申し上げます」

そう口にしながらも、彼の瞳はどこか不安げだった。まだ一人、到着していない者がいたからだ。

「エラ……エラ! 今日は決勝戦だぞ!!」

オットーは控室を飛び出し、慌ててクラブ街へと駆けていった。みすぼらしい宿の呼び鈴を押しながら叫んだ。

「エラ起きろ! 今が何時だと思ってる?!」

しばらくして、エラ・グレーゼが髪をかきむしりながら扉を開けた。髪はぐちゃぐちゃで、目元にはクラブの照明の跡がうっすらと残っていた。

「……ねえ、今日って出なきゃダメ?」

控室に戻ったエラは、よろめきながら入ってきた。ハインツは彼女を見るや否や、深いため息をついた。

「決勝戦だぞ、この間抜けが」

彼は額を押さえながら淡々と告げた。

「俺は今日、別に用事がある。交代要員として出る」

エラはカードの束を腰に挿しながら呟いた。

「くそっ、二日酔いも抜けてないのに……」


【 決勝戦 ―― 競技場 】

数万人の観衆が歓声を上げ、競技場を埋め尽くした。各国の首脳が居並ぶVIP席の後方で、ハインツは静かにスクリーンを見つめていた。

その時、審判がマイクを手に取り、ウクライナチームに問いを投げかけた。

「大会の名簿にはチームメンバーは三名と記載されています。それなのに、なぜあなた方は二人だけなのですか?」

競技場が一瞬、静まり返った。

アリーナ・ソコロワがゆっくりと席から立ち上がった。彼女の声は震えていたが、眼差しは揺るがなかった。

「私たちのチームの主将、ヴィクトル・ミリコビッチは……七年前、ロシアとの戦争で戦死しました」

観客席がざわついた。

彼女は手首からペンダントを取り出し、カメラに向かって掲げた。ペンダントは照明を受けて静かに輝いた。

「これは、ヴィクトルが戦場で私に遺した最後の形見です。彼は今、ここに、この場に共にいます」

観客席のどこかから拍手が始まった。最初は一つ、次に二つ。やがて競技場全体が、一つの音となって響き渡った。

ユリアン・グランツが重々しく頷きながら言った。

「ヴィクトルは我々全員の英雄でした。我々は彼のために戦います」

審判はしばし沈黙を守ったのち、頷いた。

「分かりました。試合を続行します」

ハインツはスクリーンを見つめながら、静かに呟いた。

「あれは……単なる記念品ではない。彼が最後まで、チームのために遺した、命以上の何かだ」


【 戦場 ―― 決勝戦開始 】

ユリアンが手を掲げて叫んだ。

「チェルノボーグ、召喚!」

不吉な気配が立ちのぼり、戦場を黒い霧が覆った。スラヴ神話に登場する闇の神、チェルノボーグがその姿を現した。赤い瞳から冷たい光が滲み出し、空間そのものが歪んだ。

アリーナが続いた。

「フリホリー・コザック、召喚!」

ウクライナの伝説的なコザックの戦士が降臨した。馬上に跨った彼の眼差しは、草原の風のように荒々しく自由だった。戦場の空気が張り詰めた。

向かい側で、オットーが深い息を吐きながらカードを投じた。

「シャルルマーニュ、召喚!」

光が弾け、フランスの大帝が戦場に降臨した。鎧は輝き、剣は炎のごとく虚空を切り裂いた。

エラが手首の装身具を握り締めて叫んだ。

「ヘル、召喚!」

神秘的な光がエラを包み込んだ。女神ヘルが現れた。美しかったが、その瞳の中には戦場の冷酷さが宿っていた。

エラは止まらずに二枚目のカードを投じた。

「血と名誉の短剣!」

剣が宙を切り裂き、彼女の手に握られた。鋭利な気配が戦場の空気を引き裂いた。

伝説と伝説が向かい合った。戦場が爆発するように激突した。


【 VIPルーム ―― ハインツ 】

ハインツは落ち着いた様子でスピーカーフォンを手に取った。

「エラ、予想戦闘時間は?」

エラは戦場の流れを読むように、しばし沈黙してから答えた。

「十分で十分だわ」

ハインツはスピーカーフォンを切り、窓の外を眺めた。競技場の歓声が遠く響いていた。

『残るは優勝チームの一席だけだ』

彼の口元に、微かな笑みが浮かんだ。

第三話をお読みいただき、ありがとうございます。

今回はいよいよ決勝戦の開幕です。フランス、オランダ、ウクライナ、ドイツ――それぞれの国が背負う歴史と神話が、戦場で交錯します。

ハインツがなぜウクライナチームに反応したのか、その答えは次回明らかになります。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。


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