リーダーに必要なのは徳? 実力? 演技?
上に立つ人に必要なのは、やっぱり徳なのか。
それとも、まずは実力なのか。
あるいは、どう見せるかまで含めた“演技”なのか。
どれか一つを選べばいいようで、たぶんそんなに簡単でもありません。
今回はマキャベリちゃんが少し危ない言葉を使いながら、でもかなり本質に踏み込みます。
上に立つ人に必要なのは、何だろう。
菜根タンは、時々それを考える。
やっぱり、徳なのかなと思う時がある。
人としてちゃんとしていて、ずるくなくて、まわりを大事にできる人。
そういう人の方が、上に立つなら安心できる気がする。
でも、実力がなかったら困る。
きれいなことばかり言っても、決められない人、守れない人、進められない人では、たぶん上には立てない。
それから、少し嫌な言い方だけど、“見せ方”もある気がする。
どれだけ中身があっても、伝わらなかったら、人はついてこない。
逆に、中身があやしくても、堂々として見えれば、すごそうに見えることもある。
徳。
実力。
演技。
どれがいちばん大事なのだろう。
その日の放課後、菜根タンは部室のちゃぶ台にノートを広げたまま、少し唸っていた。
「今日はむずかしい顔してるね」と論子ちゃんが笑う。
「うん……」
菜根タンは素直にうなずく。
「上に立つ人に必要なのって何なんだろうって」
「徳が大事な気もするし、でも実力がないとだめな気もするし」
「あと、なんか……見せ方もうまい人の方が、結局強いのかなって」
孟子ちゃんがすぐに身を乗り出した。
「徳でしょ!」
言い切るのが早い。
でも、そのまっすぐさが孟子ちゃんらしい。
「上に立つなら、まずちゃんとしてないとだめだよ!」
「人を大事にしない人とか、義を分かってない人とか、そんなの上に立ってもいやじゃん!」
「それはそうなんだけど」と菜根タン。
「でも、すごくいい人でも、決められない人とか、守れない人っているよね」
そこで、静かな声が短く入った。
「実力」
孫子ちゃんだった。
今日も必要な言葉しか使わない。
でも、その短さがむしろ強い。
「実力がないなら、論外」
「守れない、決められない、勝てない。
それでは上に立つ意味がない」
孟子ちゃんがすぐ反応する。
「でも、実力があってもひどい人はいやだよ!」
「いやでも、困るけど」と菜根タンは苦笑した。
「すごく立派なこと言ってても、何も進められない人も困るし」
「たぶん、その二つを切り離しすぎると苦しくなるんだよね」
論子ちゃんがやわらかく言った。
「徳って、ただ内面がきれいってだけじゃなくて、ちゃんと人との関係に出てくるものだし」
「実力も、勝てばいい、回せばいい、だけだとちょっと荒いし」
その時、静かで上品な声が重なった。
「そこにもう一つ足りないわ」
マキャベリちゃんだった。
今日も立ち方からして、少しだけ空気が変わる。
「演技よ」
菜根タンは思わず聞き返した。
「……演技?」
「ええ」
マキャベリちゃんは椅子に腰かける。
「言い方が気に入らないなら、“見せ方”でもいいわ」
「上に立つ人間は、徳があるだけでも、実力があるだけでも足りないの」
「それが“どう見えるか”まで含めて、ようやく上に立つ顔になるのよ」
孟子ちゃんが露骨に顔をしかめた。
「それ、なんかずるくない?」
「ずるいかもしれないわね」
マキャベリちゃんは微笑んだ。
「でも、伝わらない徳は飾りよ」
「見えない実力も、しばらくは無いのと同じ」
「上に立つなら、持っているものを“そう見える形”にしなければだめなの」
菜根タンは、その言葉に少しだけ背筋が伸びる感じがした。
たしかにそうかもしれない。
どれだけ中身があっても、伝わらなければ、周りは判断できない。
そして人は、見えているものから先に受け取ってしまう。
「でも」と論子ちゃん。
「見せ方だけあって、中身がなかったら、やっぱりいずれ崩れるよね」
「ええ、もちろん」
マキャベリちゃんはすぐにうなずく。
「だから演技“だけ”では足りないの」
「ただ、演技を軽く見てはいけないって話よ」
その時、管子ちゃん先輩が口を開いた。
「順番としては、まず実力ね」
その一言で、少し話が締まる。
「回せない人間に上は無理よ」
「人も仕事も組織も、結局は持たせなきゃいけないんだから」
「徳があっても、何も回らないなら現場が潰れる」
「だからまず、動かせること」
孫子ちゃんが短く言う。
「同意」
「でも」と管子ちゃん先輩は続けた。
「実力だけでも長くは持たないわ」
「人がついてくる理由が、ただ怖いからだけなら、どこかで腐る」
「だから徳もいるの。
この人は私欲だけで動いていない、という信用は必要よ」
孟子ちゃんが少し得意そうに言う。
「ほら、やっぱり徳じゃん!」
「早いのよ」
管子ちゃん先輩は少しだけ笑った。
「徳だけでは足りない、と今言ったばかりでしょう」
部室の空気が少しゆるむ。
菜根タンはノートに小さく「実力→徳?」と書きかけて止まった。
まだ、何か足りない気がする。
「じゃあ、演技はどこに入るの?」と菜根タン。
マキャベリちゃんが答える。
「最後じゃないわね」
「実力があり、徳もある。
でも、それが伝わらないなら、人はついてこない」
「だから演技は飾りじゃなくて、接続よ」
「中身と他人をつなぐ橋みたいなもの」
その言い方は、意外にしっくりきた。
演技というと、嘘っぽい。
でも“接続”と言われると少し見え方が変わる。
中身がある。
でも、伝わらない。
それでは力にならない。
たしかに、そういうことはある。
「じゃあ」
菜根タンはゆっくり言った。
「徳、実力、演技って、どれがいちばん大事っていうより」
「全部いるけど、役割が違うのかな」
「悪くない整理だわ」とマキャベリちゃん。
論子ちゃんも、やさしく言う。
「徳は“この人を信じていい”って思えること」
「実力は“この人なら任せられる”って思えること」
「演技は“それがちゃんと伝わること”かもしれないね」
「かなりきれいね」とマキャベリちゃんが微笑む。
「少しだけ整えれば、もっといいわ」
管子ちゃん先輩が、それを引き取るように言った。
「実力が土台」
「徳が長く支える柱」
「演技が外に見える看板」
「そんなところかしらね」
菜根タンは、その言葉を聞いて、ようやく形が見えた気がした。
土台。
柱。
看板。
どれか一つでも欠けたら、たぶん歪む。
土台がなければ建たない。
柱がなければ持たない。
看板がなければ、何の店か分からない。
「……それ、すごく分かりやすい」
思わずそう言うと、孟子ちゃんが少し不満そうに口を尖らせた。
「でも、演技って言い方はやっぱりちょっといや」
「そうね」
マキャベリちゃんは素直にうなずいた。
「でも、上に立つ人間が“どう見えるか”を考えないのは、少し無責任よ」
「人は中身を透視できないんだから」
その言葉は、少し怖かった。
でも、かなり本当のことにも思えた。
菜根タンはノートを開きなおす。
白いページに、まず一行。
リーダーに必要なのは、徳だけでも、実力だけでも、演技だけでもない。
その下に、ゆっくりと書き足す。
実力は土台。
徳は長く支える柱。
演技は、それを人に伝えるための看板。
文字を見つめながら、菜根タンは少しだけ笑った。
最初は三つを比べて、一つを選ぶ話だと思っていた。
でも本当は、一つでは足りない話だったのだ。
「……徳があるだけでもだめ」
「実力があるだけでもだめ」
「見せ方だけでもだめ」
菜根タンがそう言うと、論子ちゃんがうなずいた。
「うん。
どれか一つに寄りすぎると、やっぱり苦しくなるね」
孫子ちゃんが短く言う。
「勝つだけでは、続かない」
その一言も重かった。
勝つだけでは続かない。
たしかに、すごくこの話らしい。
マキャベリちゃんは静かに言った。
「徳は美しいわ」
「実力は必要よ」
「でも、上に立つなら、それを“上に立つ者らしく見せること”まで含めて責任なの」
管子ちゃん先輩も最後に言う。
「そして何より、回ること」
「立派に見えても回らないならだめ。
有能でも信用が積めないなら長くは持たない。
中身があっても伝わらないなら、人はついてこない」
「結局、全部いるのよ」
菜根タンは最後に、ノートへもう一行だけ足した。
上に立つ人は、
中身を持つだけじゃなく、それを支え、伝えるところまで引き受けるのかもしれない。
窓の外は、夕方の色にゆっくり変わっていた。
リーダーに必要なのは、徳だろうか。
実力だろうか。
それとも演技だろうか。
たぶん、そのどれか一つだけでは足りない。
徳だけでは守れない。
実力だけでは続かない。
演技だけでは、いずれ剥がれる。
だから必要なのは、
支える力。
信じられる中身。
そして、それを人に伝える顔。
上に立つというのは、たぶん思っていたよりずっと、
いろんなものを同時に引き受けることなのかもしれなかった。
徳だけでは守れないことがある。
実力だけでは長く続かないことがある。
そして、どれだけ中身があっても、伝わらなければ力にならないこともあります。
上に立つというのは、思っているよりずっと多くを同時に引き受けることなのかもしれません。
そんな感触が少しでも残る回になっていたらうれしいです。




