第四話5
翌日から、訓練の質が変わった。
壊して、治して、また壊す。
腕が上がらなくなるまで木刀を振り、自己再生で無理やり修復して、また振る。走れなくなるまで走り、足首の痛みを術式で消して、また走る。毎回、同じ激痛。歯を食いしばり、ジャージの袖を噛み、声を殺す。
年が明けた。
冬休みの間も、訓練は一日も休まなかった。大晦日の夜は裏庭で木刀を振った。除夜の鐘が遠くで鳴るのを聞きながら。元旦の早朝、初詣に向かう家族連れの横をジャージ姿で駆け抜けた。
だが—成長は、遅かった。
鏡の前に立つ。一ヶ月前と比べて何が変わったか。肋骨の浮きがわずかに減った。腕に薄く筋が見える。それだけだ。十三歳の体は、壊して治しても劇的には変わらない。
走力は戻りつつある。十キロ走っても脚が止まらなくなった。素振りの精度は上がった。右足の着地がぶれなくなった。だが古タイヤを木刀で叩いても、衝撃が腕に跳ね返るだけだ。魔物の骨を砕くには程遠い。
自己再生の起動は速くなった。だが痛みは減った気がしない。むしろ、発動の前から体が強張るようになった。あの激痛が来ると知っている脳が、先回りして逃げようとする。毎回、自分の恐怖を意志でねじ伏せてから発動する。それが一番きつかった。
このペースで、あと二年で間に合うのか。
間に合わなければ死ぬ。
一月の夜。陽一は机に向かい、考えていた。
進歩はしている。だが裏庭の訓練だけでは限界がある。魔物の動きを知らない。ダンジョンの空気を知らない。本物の恐怖を知らない。
泥として登録し、ダンジョンに潜る必要がある。
そのためには、父の同意がいる。
自己再生を見せれば「死なない理由」にはなる。だがそれだけで父を説得できるとは思えない。実力を見せるしかない。言葉ではなく、体で。
—もう少し。もう少しだけ、体を作ってから。
椅子の背にもたれた。自己再生で表面や内部の損傷は消えるが、蓄積した倦怠感は術式では消えない。
窓の外を見た。
一月の夜空。オリオンが見えている。冷え切った空気が窓ガラスを通して伝わってくる。結露が窓の下に溜まり、水滴が光を反射していた。
中二まであと三ヶ月。養成学校の入試まであと二年と少し。
道は見えている。だが、遠い。
ノートのページを開く。
—『生き残る』
決意は変わっていない。だが一ヶ月の訓練で思い知った。決意だけでは体は変わらない。自己再生という裏技を使っても、成長は一歩ずつだ。近道はない。
ならば、一歩ずつ進むしかない。今日より明日。明日より明後日。
デスクライトを消す。布団に入る。体中が軋む。
目を閉じると暗闇の中に魔力回路図が浮かぶ。もう恐怖も親しみもない。ただの道具だ。痛みと引き換えに自分を前に進めるための。
明日も走る。明日も振る。明日も壊して、治す。
冬の夜が静かに更けていく。




