この国の深さ
「勝を知るに五あり」
ーー孫子ーー
「治国は小鮮を烹るが如し」
ーー韓非子ーー
勝利を知る者に5つの道がある。
国を治めるのは小魚を煮るようなもの。むやみに動かしてはならない。
しかし、まず知ることから、全ては始まる。
学院に戻った。
表向きは…何事もなかった。
授業に出た。ヴィクターと話した。
派閥の仲間たちと顔を合わせた。
しかし。
俺の中では、何かが、変わっていた。
夜、部屋に1人になると頭の中を整理した。
レオンから得た情報を、1つずつ並べた。
ランツ伯爵
ヴァルター・ケルン
名前も顔も知らない、三人目の貴族
ハルト商会、主はハルト・グレン
そして、王城の深い場所にいる、真の黒幕
整理をしようとすると、レオンを思い出す。
レオンを思い出すと、彼の死を感じる。
彼の人生はなんであったのか…
無念だったのだろうか…
安打があったのか…
託されたという実感は薄く、傷ついた彼が力を振り絞って、伝えてくれた。
俺が今持っている力を、考えた。
剣
まだ、第一段階
フリッツとの修行は始まったばかりだ
法
上から王令
おお動かしていない
人
学院の仲間たち
彼らに、この話は届けられない
金
党首としての資金
商会の裏を動かすには、足りない
…全部、足りない。
レオンが言っていた、「剣だけじゃない。法だ。金だ。人だ。」今の俺にはまだ、何も足りない。
今は、それがわかった。
それだけで、十分だった。
ヴィクターが、夜食を持って来た。
机の上に置きながら俺の顔を見た。
「……党首殿。何かありましたか?」
「何もありません。」
「……そうですか。しかし顔が、少し違います。」
俺は少し考えた。
「……ヴィクター。この国には、俺たちが知らない、深い穴がある、と思うか?」
ヴィクターが、少し目を細めた。
「……深い穴、とは?」
「見えないところで、腐っているところがある、そう言われる様なと言うことです。」
ヴィクターが、少しの間、俺を見た…
それから静かに言った。
「……あると思います。私の家は武門の家です。軍や貴族との付き合いが多いと、時々、説明のつかない金の動きを見ます。誰かが裏で動いている…。それは表からは見えない。そういうことは、 確かに、あります。」
── ヴィクターも、感じていた。
── 武門の家の目にも── 見えていた。
「……いつか、一緒に動いてもらう事、そういう事になるかも知れない…」
「……はい。その時は、全力で!」
ヴィクターが、一礼して、出て行った。
夜が更けた。
俺は、頭の中の地図を、もう一度考えた。
ランツ伯爵、ヴァルター・ケルン、三人目の貴族、ハルト商会…
そして、王城の深い場所にいる男。
その男の名前を言おうとして、事切れたレオンの唇からの、「二音」。
ーーまだわからない。
ーー今の俺にできる事をやるしかない。
フリッツとの修行が、 頭に浮かんだ。
「殺」と「守」の第一段階。
まだ始まったばかりだ…
討伐の後、本格修行が待っている。
ミア姉様と、エドと、仲間たちと…
強くならなければならない…
剣だけでなく、法と、金と、人…
全てを俺の力にしなければならない。
それが、この国の深さに届く道だ。
空が少し、白んでいた。




