血の告白・後編
「言は心の声なり。心に誠あれば、言に力あり」
ーー韓非子ーー
言葉は心の声だ。心に誠があれば、言葉に力がある。
死の間際の言葉は、最も軽く、そして最も重い。
夜が、深くなった。
虫の音が続いていた。
水が引いた後の湿った空気が、部屋に満ちていた。
レオンが、 目を開けた…。
「……起きているか?」
「はい。」
「……ずっと……そこにいたのか………」
「はい…。」
レオンが、少し息を吐いた。
「……奇妙な…王子だ……処断するつもりで……来て……傍に……座っている……。」
「処断するつもりは、今はもうありません。」
「……そうか…。」
少しの間、沈黙があった。
レオンが、静かに話し始めた…
「……黒幕の……話をする……」
「はい」
「……その男は……貴族でも……商人でもない……もっと……深いところに……いる……」
貴族でも、商人でもない…。
「……連中が……その男の…名前を……出す時は……必ず….…声を落とし……た….場所を……確認してから…話した……
それほど………大きな…男だ……」
「……どこにいる人間ですか?」
レオンが、少し間を置いた。
呼吸が…また浅くなっていた。
「……王城の── 中だ。
……しかも── 深い場所に。
陛下の── 近くに」
王城の、深い場所…
父上の、近くに…
「……その男が……今の反王権派を……作ったわけじゃない……ただ……利用……して……いる……王権が…揺れれば……自分の…立場が…上がる……そういう……計算だ……」
「……名前を、教えてもらえますか?」
レオンが、俺を見た。
目が、あってなく少し遠くなっていた…
「……な…ま……え…… 」
レオンが止まった。
「…………」
「レオン?!、レオンっ!!」
レオンが口を動かした。
音が出なかった…。
唇が、かすかに動いた…
一音……
二音……
声に、ならなかった。
レオンの目が、静かに...…閉じた。
呼吸が……止まった。
フリッツが、部屋に入ってきた。
俺の隣に、膝をついた…
レオンの首筋に手を当てた。
「……逝かれました。」
俺は、レオンの手を、まだ握っていた。
少しずつ冷たくなっていた。
しかしまだ、離せなかった。
ーーレオン・ファルク。
ーー23歳。
ーー下級騎士の三男。
ーー顔が似ていた、ただそれだけで.、人生を変えられた男。
ーー王家のために、と言われた。
ーー 誇りを持ちたかっただけだった。
ーー 最後まで、名前を言おうとした。
部屋に、フリッツと俺だけが残った。
虫の音が続いていた。
フリッツが静かに言った…
「……殿下、唇の動きは見えましたか?」
俺は、少し間を置いた…
「……二音、見えました。ただ、確信は、持てない。」
フリッツが頷いた。
「……わたくしも、同じです。後ほど、確認を…」
俺は、レオンの手を、そっと置いた…
それから、立ち上がった。
部屋を出た。
夜の空気が、冷たかった。
真の黒幕の名前は、まだわからない。
しかし、二音が、頭に残っている。
その二音が何を指すのか……。
それを俺はいつか、確かめる。




