血の告白・前編
「知らざれば問え、能わざれば学べ」
ーー孫子ーー
「人の口を防ぐは、川を防ぐより難し」
ーー韓非子ーー
知らなければ問え、できなければ学べ。
人の口を塞ぐのは、川を堰き止めるより難しい。
しかし、口が閉じられる前に、聞かなければならないことがある…。
レオンの呼吸が、浅くなっていた。
警護の者が俺の肩に手を置いた。
「……殿下。あまり時間は…」
「わかっています。」
レオンが目を開けた。
俺を見た。
レオンが、少し間を置いた…
呼吸のたびに、顔が歪んだ…
しかし、目は、はっきりしていた…
「……話す……聞け…。」
「はい。」
頭に刻む……
だから全て、耳で受け取る……
「……貴族だ…、まず……貴族から話す……。」
レオンが、少し息を整えた。
「……ランツ伯爵……議会では……常に王…家の…、側に…立つ男…だ……。陛下の前では……笑顔を……絶やさ…ない…しかし……連中に……金…を…流して……いた…。定期…的に…長い…間……。」
ランツ伯爵…
「……もう1人……、ケル…ン、辺境伯の………次男だ…。名…は………ヴァルター……、辺境伯本人は………関係ない……。次男だけが………独自に動い……て……いた……。……若い……、20代だ……、野心が…… ある…。」
ヴァルター・ケルン…
若い。20代。辺境伯家の次男…
レオンが、少し咳き込んだ。
警護の者が布を当てた。
布が、すぐに赤くなった…。
「……もういい。続きは…」
「頼むから…、聞いて…くれ……。」
レオンが、俺を見た。
それから、小さく笑った…。
レオンが、少し間を置いた。
天井を見た…
「……3人目は……名前が……わからない…、顔も……見ていない………ただ………連中の中で……その男の…、名前が出ると……、空気が…変わった……、誰も………軽口を……叩かなくなる………そういう…男だ…。」
名前も、顔も知らない…。
しかし、存在する…。
空気を変える男が……。
「……商人を……きけ……」
レオンが、ゆっくりと続けた…
「……王都の…西…ハルト商会……、穀物と…織物を……、王城に…も… 出入りしている…商会…」
「物資の横流しですか?!、そうなんですな?」
「……ああ…、武器と……食料……。
荷馬車の底に……隠して運ぶ………、定期的に……拠点に……拠点にも……ハルト商会……の荷……」
ハルト商会。
王城に出入りする商会が、武器を運んでいた。
「……商会の…主は…ハルト…グレン…、60……過ぎの……太った……男だ……愛想が……いい……目が.…笑ってない…あの目は……金だけ……」
レオンが、また少し咳き込んだ。
今度は長かった。
「……レオン」
フリッツが、扉の外から声をかけた。
「……殿下。少し、休ませてください!」
レオンが、手を上げた…。
フリッツへの、制止の合図だった…
「……まだ……ある……大事な.…ことが.……」
……一番大事なこと。
……真の黒幕。
レオンが話そうとしている……
「……聞きます!」
レオンが、目を閉じた…
少しの間、何も言わなかった……。
呼吸だけが、聞こえた……
それから、目を開けた。
「……この国の……一番……深…い……ところに…いる…」
一番深いところ……
「……次の話は……長い………少し………休ませてくれ……。」
俺は頷いた。
レオンが、目を閉じた…
呼吸が少し、落ち着いた。
部屋に静寂が戻った。
一番深いところに、いる…
その男の正体を俺はまだ知らない…




