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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
流水の陣、影に宿る名 偽りの王子と、沈黙の黒幕

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良心という名の迷い

「法は愛する者を罰することを避けず、賞は憎む者を漏らすことなし」

ーー韓非子ーー


将に五つの危うさがある。

法は情で曲げてはならず、賞罰は好き嫌いで変えてはならない。

しかし、それを知りながら、人は迷う。迷うことが、人間の証だ。



密使を出した後、返答が来るまでの間、俺はレオンの部屋に残った。

フリッツが部屋の外に立った。

俺とレオンが向き合った。

「……で?」


レオンが先に口を開いた。

「密使とやらが戻るまで、ここにいるつもりか?」


「はい。」


「……見張りか?」


「違います…」


レオンが少し目を細めた。

「では何だ?」


俺は少し考えた。

「話を聞きたいのです。返答が来るまでの間、聞けるだけ聞いておきたい。」


レオンが、少し笑った。

乾いた笑いだった…。

「……父王の判断を待ちながら、俺に話を聞かせる気か。処断されるかもしれない相手に…」


「そうです。」


「……変わった王子だ。」


変わった、とよく言われる。

しかし、処断の返答が来る前に聞かなければ、聞けなくなるかもしれない。


「レオン・ファルク…」


「何だ?!」


「あなたは、ヴォルフ卿に、何を言われて引き受けたのですか?」


レオンが、止まった…

目が、わずかに変わった。


「……ヴォルフ卿を知っているのか?」


「経緯は調べました…」


レオンが少し息を吐いた。

「……「王家のために」と言われた。殿下が安全に暮らすための盾になってほしい、と…。何かあった時に、表に出る影武者が必要だと。」


「引き受けた理由は?」


レオンが、少し間を置いた。

「父が、下級騎士だった。王家に仕えることを誇りにしていた男だった。俺はその息子で三男で騎士にもなれない身分だった。王家のために何かできる、と言われた時、断る理由が、なかった…」


断る理由が、なかった。

誇りを持ちたかった。

ただそれだけで、この男の人生は、変えられた。


しばらく…、二人とも黙っていた。


雨が窓を叩いていた。

外の水音が、少し遠くなっていた。

氾濫の水が引き始めているのかもしれなかった。


レオンが、ふと言った。

「……お前は、この男を助けたいのか?」


「あなたのことですか?」


「ああ…」


俺は少し考えた。

「……助けたいかどうかは、まだわかりません。ただ、処断することが、正しいとも言い切れない。だから、父上に判断を仰いだのです。」


レオンが、静かに言った。

「……王命は処断だ。それでも父王に仰ぐというのは、王命に逆らう覚悟があるということか?」


俺は少し止まった。

「覚悟ではなく、筋を通したかったのです。俺一人の良心で処断をやめるのは、王命への不義になる。しかし、処断することへの迷いも、無視できない。だから、判断を、上に返した。それだけです。」


レオンが、俺を見た。

長い間、見ていた。

「……お前は、何歳だと言った?」

「8歳です」

「……8歳が、そういうことを考えるか。」


「考えなければならない立場です…」


レオンが、少し笑った。

今度は乾いた笑いではなかった。

何かを受け入れたような静かな笑いだった。

「……わかった。話せる範囲で、話す。どうせ…、返答が来るまで、時間がある。」


レオンが語り始めた。


反王権派との接触は、影武者になって三年目だったという。

ヴォルフ卿の手の者に鍛えられ、王子としての振る舞いが体に入った頃だった。

「連中は、俺が本物の第2王子だと信じていた。どこで嗅ぎつけたかはわからない。ただ、俺が影武者だとは、露ほども疑っていなかった。」


「そのまま、乗ったのですか…」


「乗らなければ、死んでいた。俺が偽物だと知れた瞬間、連中にとって俺は邪魔なだけだ。生かしておく理由がない。」


乗らなければ死ぬ。

乗れば旗にされる。

どちらへ行っても逃げ場がなかった…


「旗になった時、どう思いましたか」


レオンが、窓の外を見た。

「……最初は、怖かった。自分の意志ではない動きが、どんどん大きくなっていく。止めようとしても、止められない。俺の名前で人が動いていた…。俺の名前で人が死んでいた…。」


部屋が、静かになった。

雨が、また強くなった。


俺の名前で、人が死んでいた…

その重さをこの男は、ずっと背負ってきた…


「……オスカー兄上を── 恨んでいますか?」


レオンが、少し止まった。

しばらく何も言わなかった。

「……恨んでいない。」


「なぜですか?」


「あの方も檻の中にいたからだ。王族というのは、金の檻だ。逃げたくなるのはわかる。俺も 逃げたかった。逃げる場所がなかっただけだ…」


金の檻の中にいた王子と。

逃げ場のなかった影武者と。

二人の男が、同じ檻を違う側から見ていた…


「……ありがとうございます。」


レオンが、少し目を瞬いた。

「何に礼を言う…」


「話してくれたことに。」


レオンが、また笑った。

「……礼を言われる筋合いはないが…。まぁ、悪くはない夜だ。」


雨が、静かに続いていた。

父王の返答は、まだ来なかった。

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