3つの封書と、父王の沈黙
「故に謀を廟算するに勝つる者は算多く、廟算するに勝たざる者は算少なし」
ーー孫子ーー
「人主の患は信人するに在り。人を信ずれば、則ち制せらる」
ーー韓非子ーー
戦の前の計算が多い者が勝つ。
しかし君主の患いは、人を信じすぎることにある。
信じすぎれば制される。
父王からの書状が届いたのは、学院一本化から1ヶ月後のことだった。
封書は三通あった。
それぞれに、王家の封蝋が押されていた。
但し、封蝋の色が、それぞれ違った。
金、銀、そして……、黒。
ヴィクターが持ってきた時、その顔色が普通ではなかった。
「……党首殿。陛下より、直々の書状です。三通、同時に届きました。」
「封蝋の色の意味はわかるか?」
「金は謁見の召喚。銀は命令。黒は……」
ヴィクターが少し言葉を止めた。
「黒は、秘匿任務です。公式記録に残らない命令に用いられます…」
俺は三通を手に取った。重さが、それぞれ違った。
……父上は、三つの話をするつもりだ。
……そしてそのうちの一つは、表に出せない話だ。
「王都へ向かう。準備を頼む。」
「……いつ出発なさいますか?」
「明日の朝…」
ヴィクターが頷いた。
それからもう1度、三通の封書を見た。
「……党首殿。黒の封書だけでも、先に開けてみてはいかがですか?」
「なぜだ?」
「内容によっては、準備が変わります。」
俺は少し考えた。
「いや。三通まとめて、父上の御前で開ける。」
「……承知しました。」
ヴィクターが退出した。
俺は三通の封書を机の上に並べた。
金、銀、黒。
父上は、何を考えているのか…
前回お会いした時、父上は言った
「お前が動く日が来ることを、想定している」と…
その日が、来たということか…?!
俺はノートを開いた。
三通の封書
金(謁見召喚)
銀(命令)
黒(秘匿任務)
全て同時に届いた
父上の意図
1度の謁見で、三つの話を済ませるつもり
黒の内容が核心だと思われる
王都へ
ペンを置いた。
窓の外に、夜の学院が広がっていた。
もうすぐ、ここも変わる。
……変える。
王都への道中、ミア姉様が馬車の中で静かに言った。
「……フリッツも同行しています。父様から連絡がありました。」
「黒の封書の件ですか?」
「おそらく。父様は何も教えてくれませんでしたが…」
ミア姉様が窓の外を見た。
「……ルーク。何か、大きなことが動いている気がします…」
「はい…」
「怖くは、ないですか?」
俺は少し考えた。
「怖いかどうかより、面白いと思っています。」
ミア姉様が俺を見た。少し呆れたような、しかし温かい目だった。
「……ルークらしいですね。」
「そうですか?」
「そうですよ…。 でも、無理はしないでください。」
「します!」
「……わかっていました…。でしょうね。」
馬車が王都への街道を進んでいった…




