盤を広げる 他派閥との駆け引き
「攻めずして勝つは、謀を伐つなり」
ーー孫子ーー
「利を以て誘い、害を以て脅す。これ二刃なり」
ーー韓非子ーー
戦わずして勝つのは謀略によってだ。
利で引き寄せ、害で牽制する、それが二つの刃だ。
4年になり、俺は外に向けて動き始めた。
学院の派閥は、大きく分けて4つある。
玄狼衆── 俺たちの派閥。
鉄環会── フォン・ハウザー率いる実力主義の集団
白鷺派── 貴族出身者中心の上品な集まり
暁明社── 小規模だが独立心の強い集団
加えて── 無所属の者たちが学院内に散在している。
シオン兄上の命令は「二大派閥」だった。
しかし俺は、一本化を目指す!
ーー二つに分けても、対立が生まれる。
ーー対立は消耗だ。学院にいる間の消耗は、出た後に響く。
鉄環会のフォン・ハウザーとは、訓練場の隅で話した。
「俺が党首として動く。鉄環会に統合を提案したい。」
フォン・ハウザーが腕を組んだ。
「……吸収か?」
「違う。連合だ。鉄環会は鉄環会のまま動いていい。但し、大きな場面では一緒に動く。」
「……条件は?」
「条件はない。お前の判断に任せる。」
フォン・ハウザーが俺を見た。少し間があった。
「……なぜ条件を出さない?」
「条件で動いた人間は、条件がなくなれば離れる。俺は判断で動いてくれる人間が欲しい」
フォン・ハウザーがしばらく黙った。
腕を組んだまま、俺を見続けた。
「……一つだけ聞く。お前は俺たちを駒として使うつもりか?」
俺は少し考えた。
「駒として使う気はない。但し、一緒に動く以上、俺の判断に従ってもらう場面はある。それが嫌なら無理には誘わない。」
フォン・ハウザーが短く笑った。
「……正直な党首だな。わかった。乗るよ!」
「ありがとう。」
「感謝はいらん。面白そうだから乗るだけだ。」
白鷺派の代表エルンスト・フォン・ヴァイスは、書庫の個室で話した。
白鷺派は話が始まる前から、エルンストの顔が少し固かった。
……警戒している。
……玄狼衆に吸収されることを、恐れているのだ。
「単刀直入に聞く。白鷺派は、統合に参加する気があるのか?」
エルンストが少し間を置いた。
「……我々は、戦力として弱い。それは承知しています。統合に加わっても使い捨てにされるだけではないですか?」
「使い捨てにするつもりはない。白鷺派には、白鷺派にしかできない役割がある。」
「……役割、とは?」
「学院内の外交と調停だ。各派閥の間で摩擦が起きた時、白鷺派が間に入ってくれれば、俺が直接動かなくて済む。剣で解決できない問題を、言葉で解決できる人間がこの組織には必要だ。」
エルンストが少し黙った。
白鷺派は長年、「戦力として弱い」というコンプレックスを抱えていた。
その自覚が、この男の表情に滲んでいた。
「……殿下は、我々を、必要としてくださると?」
「必要だから言っている。お世辞ではない。」
エルンストが、静かに息を吐いた。
それから深く頭を下げた。
「……白鷺派一同、喜んで党首殿に従います。」
暁明社のゼバスティアンは、最も手こずった…
「統合と言っても、結局は吸収だろう?」
「違う。連合だ。」
「言葉の違いだ…」
「違う。吸収は指揮系統が一本になる。連合は各派閥の独立を保つ。暁明社は暁明社のままでいい…」
ゼバスティアンが腕を組んだ。
「……俺たちに、何の得がある?」
「得は保証しない。ただ次に学院で何かが起きた時、暁明社は単独で動くことになる。それでも構わないならば、断ってくれ。無理には誘わない。」
ゼバスティアンが少し目を細めた。
「……脅しか?」
「事実を言っている。一人で戦える組織なら、俺の話は不要だろ?」
しばらく沈黙があった。
「……条件がある。」
「聞こう。」
「暁明社の名前は残す。そして俺たちの判断を尊重する場面を作れ。何でも命令通りには動かない。」
「名前は残す。判断の尊重についてはできる範囲でする。但し、緊急の場面では俺の指示に従ってもらう。」
ゼバスティアンがしばらく考えた。
「……それで、いい。」
握手した。ゼバスティアンが少し笑った。
「……8歳に交渉されるとは思わなかった」
「9歳になったらもっと上手くなる,」
「……それは怖いな、党首殿」
無所属の者たちへの声かけは、ミア姉様が担当した。
「党首殿の参謀として、説得いたします…」
ミア姉様が動いた結果、無所属の大半が翌日中に参加を表明した。
「さすがです、ミア姉様。」
「えへへ。参謀の仕事、初日から結果を出しました。褒めてくれていいですよ?」
「褒めます。ただ調子に乗らないでください…」
「……はーい。」
参謀が一番扱いにくいのは…当初からわかっていた。




