同級生1人ずつ
「上下和同して敵に取る」
ーー孫子ーー
「衆人の心を得る者は王となり、一人の心を得る者は友となる」
ーー韓非子ーー
組織は上下が心を合わせてこそ動く。
多くの心を得る者が王となり、一人の心を得る者が友となる。
三年生の最終日、夜だった。
俺は同級生9名を、一人ずつ部屋に呼んだ。
全員に伝えたのは、同じ内容だ。
「シオン殿下より派閥を引き継ぐ。俺が党首になる。不満がある者は他派閥に移っていい。但し、決めるのは今夜だ!」
1人ずつ呼んだのは、理由がある。
全員の前で聞けば、空気に流される。
1対1で聞けば、本音が出る。
最初に来たのは、エドだった。
扉を開けた瞬間から、エドの顔は決まっていた。
いつもの無表情。
しかし、目の奥に何かがあった。
「エド。不満があるか?」
「ない。」
「他派閥に移るか?」
「移らない。」
エドが少し間を置いた。
それから珍しく、少し迷うような顔をした。
「……一つ、頼みがある。」
「言え!」
「お前が党首になるなら、俺を側近にしてくれ。」
……側近。
エドから、そういう言葉が出るとは思わなかった…
「理由を聞かせろ。」
「……お前の傍にいる方が、面白いから。」
エドらしかった。
損得でも義理でもなく、「ただ」それだけだった。
「わかった。側近にする。」
「……ありがとう。」
エドが少し頷いた。それから少し目を逸らした。
「……もう一つ。」
「何だ?」
「俺は敬語が使えない…。党首になっても、お前への口調は変えない。それだけは、承知してくれ…」
俺は少し考えた。
「構わない。」
「……本当に?」
「お前が、お前のままでいてくれる方が、俺には都合がいい。」
エドが少し、表情を緩めた。
それだけで、出ていった。
ーーエドは、エドのままでいる。
ーーそれが1番、頼りになる。
ミア姉様が来たのは、3番目だった。
扉を開けた瞬間から、ミア姉様の目が輝いていた。
……嫌な予感がした。
「ルーク。不満はないわよ。他派閥にも移らない。だから条件の話をしましょう!」
「……何の条件ですか?」
「側近ではなく、『参謀』として、私をルークの傍に置くこと。それが条件です。」
……参謀。
……ミア姉様がそれを望むとは、思っていなかった。
「参謀として、何ができますか?」
「私の持つ全ての力と繋がりを、ルークが自由に使えるようにする。父の人脈も、私自身の情報網も…、全部よ。ルークが必要と言えば、惜しまない。」
俺は少し考えた。
……ミア姉様の繋がりは、学院の外にまで及ぶ。
……それが使えるなら、確かに、大きい。
「承知しました。参謀として、傍に置きます。」
ミア姉様が、少し笑った。
しかし、それだけではなかった。
「もう一つ…」
「……まだありますか?!」
「私のことは、今まで通りお姉様として扱うこと。可愛い弟として対応してくれること。そして『ミア姉様』と呼んでくれること。それが私の全ての栄養なの!!」
俺はしばらく、ミア姉様を見た。
……全ての栄養、か…。
「……では、投資として承諾します。」
ミア姉様が、顔を輝かせた。
「ルーク! ありがとう! 本当にありがとう!!わかっていたわ、ルークなら絶対わかってくれると思っていた。これからもよろしくね、頼りにしているわよ、本当に!!!」
「ミア姉様…」
「なに?」
「参謀が騒がしいと、盤が読めません…」
ミア姉様が……口をつぐんだ。
少し頬を赤くした。
「……失礼しました、党首殿。」
「よろしい。下がっていいです、ミア姉様。」
ミア姉様が退出した。
扉の向こうで、小さく「えへへ」という声が聞こえた気がした…
参謀が一番騒がしいのは……、少し、問題かもしれない……。
残りの6人は、それぞれ違う反応だった。
ラウルは腕を組んで「面白くなりそうだ」と言った。
クルトは「殿下が党首なら心配ない」と即答した。
ヴィクターは「殿下の命令ならば」と深く頭を下げた。
エリカは「不満はないけど、党首殿って呼ぶの、少し慣れるまで時間がかかりそう」と笑った。
1人、カスパルという男が少し黙った。
「……正直に言う。俺は、シオン殿下のやり方が好きだった。ルーク殿下のやり方は、シオン殿下とは違う。それに慣れるかどうか、今はわからない。」
俺はカスパルを見た。
「正直に言ってくれてありがとう。慣れなくていい。ただ動く時は一緒に動いてくれ。それだけでいい。」
カスパルが少し間を置いた。
「……わかった。それなら、できる。」
9人、全員の面談が終わった。
他派閥に移ると言った者は1人もいなかった。
俺はノートに書いた。
同級生面談
全員残留
側近 エド
敬語不要、承認済み
参謀 ミア姉様
全繋がり使用可
「ミア姉様」呼称継続
投資、成立




