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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
金の檻と、水底の龍

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金色の兄たちと、温度のない弟

「将に五危あり。必死は殺され、必生は虜にされ、忿速は侮られ、廉潔は辱められ、愛民は煩わされる」

ーー孫子ーー


将たる者には5つの危うさがある。

死を恐れぬ者は討たれ、生に執着する者は囚われ、怒りやすい者は侮られ、潔癖な者は辱められ、民を愛しすぎる者は翻弄される。

盤上の駒を知ること。駒の強さより、その危うさを先に知れ。


4日目の午後、俺は初めて兄たちと同じ食卓についた。

王族の昼食は、週に一度、全員が揃うことになっているらしい。

今日がその日だった…


食堂の長テーブルに、王子たちが並んで座っていた。

俺は席についた瞬間から、観察を始めた。


第1王子アルベルト・フォン・ヴァルトハウゼン 20歳

金髪、体格が良く、笑顔が多い

誰に対しても同じ温度で接している

それが、 技術か本心かは、まだわからない


第三王子ジュリアン 18歳

アルベルトに似ているが、もう少し線が細い

学者肌と聞いていた。食事中も本を手放さなかった


第四王子シオン 17歳

いつも通りの温度のない目


食事をしながら、誰の顔も見ていなかった。

しかし、全員を見ていた。

その違いが、俺にはわかった…


そして、第五王子ルーク。俺。7歳。


アルベルトが俺を見て、笑顔になった。

「ルーク! 大きくなったな。学院での活躍は聞いているぞ、大活躍だったそうだな後方で…」


「ありがとうございます、アルベルト兄上。学院の皆のおかげで何とか…」


「いやしかし驚いた。7歳で先発隊を制圧するとは思わなかった。俺が7歳の時は何をしていたかな。確か木から落ちて泣いていた気がする。」


……自分を下げて相手を立てる。笑顔で距離を縮める。

…… アルベルト兄上は、人を引きつけるのが上手い。


「アルベルト兄上の頃とは状況が違います。俺は運が良かっただけです。」


「謙遜するな。ちゃんと褒められろ、末の弟よ。」


アルベルトが豪快に笑った。

その笑いは、本物だと思った。

少なくとも、今は…


ジュリアンが本から目を上げた。

「学院の書庫は充実しているか?」


「まずまずです。ただ王城の書庫と比べると…」


「だろう!王城の書庫は素晴らしい、父に感謝だ、特に東側の第三棚に…」


「ジュリアン兄上、食事中ですよ。」


「……そうだったな。すまない。」


ジュリアン兄上は純粋に学問が好きな人間だ。政治的な野心は今のところ感じない様に見える。

少なくとも、今は…



食事が進むにつれて、俺は三人の兄をそれぞれ観察し続けた。


孫子が言う「五危」というものがある。


将たる者の危うさは5つ。

1.死を恐れぬ者は討たれる

2.生に執着する者は囚われる

3.怒りやすい者は侮られる

4.潔癖な者は辱められる

5.愛民が過ぎる者は翻弄される


これは戦場の将の話だが、盤上でも同じことが言える。

駒の強さより、その危うさを先に知ることが、盤を読む上では重要だ。


では、三人の兄上の「危」は何か…


アルベルト兄上

「愛民」だ。

あの笑顔は、技術だけではない。本物の親しみを持って人に接している。

それは強さだ。

しかし同時に弱さでもある。

人を引きつける力を持つ者は、その人たちに翻弄される。

誰かが泣けば動き、誰かが笑えば共に笑う。

感情の流れに乗せられやすい。

善人は時として最も動かしやすい駒になる。


ジュリアン兄上

「廉潔」だ。

学問への純粋な愛が、この人の美点だ。

しかしその純粋さは、「汚い手を嫌う」、ということでもある。

政治の盤に汚れた手が必要な場面が来た時、ジュリアン兄上は動けない。

あるいは、動くことを拒む。

潔癖な者は、その潔癖さを利用されて辱められる。

ジュリアン兄上の清廉さは、誰かに「あなたなら正しい判断をしてくれる」と使われる日が来るかもしれない。


シオン兄上

何だろう…


俺はシオン兄上を横目で見た。

相変わらず無表情だった。食事をしながら、誰とも目を合わせていない。

しかし、全員の動きを把握していた。


……五危のどれにも当てはまらない。

……それが、最も読みにくいということだ。


五危に当てはまらない将は、読めない将だ。

読めない将は、盤上で最も厄介な駒になる。


俺はその考えを、頭の中だけに留めた。

ノートには、まだ書けない。


アルベルトが俺の視線に気づいて、声をかけてきた。

「ルーク、何を考えているんだ。難しい顔をしているぞ!」


「……兄上方のお顔を、拝見していました。」


「それはまた殊勝なことだな。何か思うことがあったか?」


俺は少し考えてから答えた。

「それぞれに、異なる強さをお持ちだと思いました。」


アルベルトが嬉しそうに笑った。

「お世辞が上手いな、末の弟は!」


「お世辞ではありません。」


「はっはっは。気に入った!!」


ジュリアンが本から顔を上げずに言った。

「……7歳にしては、目が冷静すぎる…」


シオン兄上は、何も言わなかった。

ただ少し、俺の方を見た。

それだけだった。


……シオン兄上は、俺が何かを考えていることに、気づいている。

……そしてそれが何かも、おそらく。



食事が終わった後、俺はシオン兄上と廊下で二人になった。

別に意図したわけではなかった。食堂を出た方向が同じだっただけだ。


しかし、シオン兄上は足を止めた。

「ルーク…」


俺も止まった。振り返った。


シオン兄上が、俺を見ていた。

いつもの目だった。温度のない、静かな目。

しかし、その目が、少しだけ動いた。


「書庫に行ったか?」


「はい。」


「何を読んだ?」


「色々と.」


シオン兄上が少し間を置いた。

「侯爵と会ったか?」


「はい。」


「何か受け取ったか?」


俺はシオン兄上の目を見た。


…この質問は、知っていて聞いているのか。

知らないで探っているのか。


そしてもう1つ…

今の食卓での俺の視線に、何を読んだのか…

「お会いしました。ご挨拶をいただきました。」


シオン兄上がもう一度、俺の顔を見た。

「……兄たちの何を、見ていた?」


俺は少し止まった。


これは…試されている。

正直に答えるか、躱すか…

どちらを選ぶかを、見ている…


「……強さと、危うさを…」


シオン兄上が、一瞬、止まった。

本当に一瞬だった。

しかしそれは確かにあった。

「そ…」


シオン兄上がもう一度俺を見て、それから頷いた…

「そうか…」


それだけで、歩き出した。

廊下の奥へ。足音が、静かに消えた。


俺は廊下に一人残った。


シオン兄上は、知っていた。

俺が侯爵から何かを受け取ったことも。

俺が食卓で三人の兄を分析していたことも。

それを全部知った上で、なぜ「そうか」で終わらせた。

それよりも最初の「そ…」だ…


止める必要がなかったのか?

それとも、俺が動くことを確認したかったのか?

あるいは俺が「五危」を知っていることを、確かめたかったのか?


俺はノートを開いた。廊下の壁に寄りかかりながら書いた。


シオン兄上 観察

封書受け取りを把握済み

食卓での分析も把握済み

それを知った上で、止めなかった

俺が動くことを確認したかったのか


アルベルト兄上 危

愛民 強さが弱さになる型

最も動かしやすく、最も傷つきやすい


ジュリアン兄上  危

廉潔 純粋さが利用される型

本人が気づかないまま使われる可能性


シオン兄上 危

不明 五危に当てはまらない。

最も読みにくい


…そして俺自身の危は何か。

…まだ、わからない。


ペンを置いた。


廊下に夕方の光が差し込んでいた。


自分の危うさを知らない者が、最も危うい。

それもまた、孫子の教えだ。

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― 新着の感想 ―
>『…そして俺自身の危は何か。 …まだ、わからない。 ー(中略)ー 自分の危うさを知らない者が、最も危うい。 それもまた、孫子の教えだ。』 ソレを↑↑↑判ってる!コトがw大切♪ 弱みは「安全」のしる…
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