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転生したら第5王子で兵法(孫子)と法家(韓非子)で、無双王を目指す  作者: ひょっとこ、とことこ
3年生・学院封鎖戦編 学院は落ちない、俺たちが守る

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山に火が上がる夜 火計

「火攻は外より発し、水攻は内より発す」

ーー孫子ーー


火による攻撃は外から仕掛け、水による攻撃は内から仕掛ける。火は、最も古く、最も確かな兵器だ。


先発隊が降伏した翌日の昼。

物見から報告が来た。

「反王族軍の本隊より、確認の物見が学院方面に送られました。学院の正門に反王族軍の旗が立っているのを確認し、帰還しています。」


俺は報告を聞いた。

旗は、先発隊降伏後の夜明け前に立てておいた。

反王族軍の旗を、先発隊の荷物の中から見つけたものだ。

学院の正門に、大きく掲げておいた。

物見はそれを見て、「学院は制圧済み」と判断したはずだ。


「本隊の動きは?」


「現在、学院の北西、五里ほどの山麓に野営の準備を始めている模様です。明日の朝には、学院へ向かうものと思われます。」


俺は頷いた。


ーー読み通りだ。

「学院は落ちた」と思っている軍は、焦らない。

急ぐ必要がないから、一晩野営して英気を養う。

そしてその野営地は、山の麓だ。


風が、北から吹いていた。


フリッツが来たのは、その夕方だった。

執事服のまま、音もなく集会室に現れた。

ミア姉様が呼んでいた。


「殿下から、ご用件を伺っております。」

フリッツが静かに礼をした。


俺は言った。


「本隊が野営している山麓に、村人を装った使者を送ってほしい。酒と肉の差し入れを持って…。村が反王族軍に心を寄せているように見せかけて、陣営に入り込む。そして深夜、野営地の周囲の枯れ草と林に火をつける。風向きを考えると、北西からの風が火を南東、つまり野営地の中心に向かって運ぶはずだ…」


フリッツが俺を見た。

穏やかな目だった。しかし、その目の奥で何かが動いた。

「……酒と肉の差し入れ、でございますか?」


「そうです。少量の睡眠薬を混ぜておいてください。致死性のものは使わない。ただし深く眠る程度のものを。火が上がった時に、逃げる反応が遅れる程度で十分です。」


フリッツが静かに頷いた。

「承知いたしました。差し入れ役の者は、侯爵様の者を数名使います。それに加え、学院の教職員の方々に扮装をお願いできますでしょうか。村人らしく見せるには、人数と顔つきの多様性が必要ですので…」


「教職員への話は私からします。但し、詳細は伝えません。村人に扮して差し入れを届けるだけ、と伝えます。」


「賢明なご判断かと存じます…」


ミア姉様が静かに言った。

「フリッツ、危険はありませんか、あなたの部下に…」


フリッツが、ミア姉様を見た。

その目が、少し和らいだ。

「お嬢様のご心配、ありがとうございます。ただ、このような仕事は、私どもにとって……通常のことでございます。」


ミア姉様が少し黙った。それから頷いた。

「……わかりました、気をつけて…」



その夜、俺は学院の物見台から北西の山を見ていた。

村人に扮したフリッツの部下たちと、学院の教職員六名が、夕方のうちに山麓の野営地へ向かった。

酒樽を三つ、肉の塊を荷車に積んで。

笑顔で、何も知らない村人として…


野営地から、歓声が上がるのが遠く聞こえた気がした。

反王族軍の兵たちが、差し入れを喜んでいる声だった。


そして深夜…


山の北西の方向から、橙色の光が上がった。

最初は小さかった…

しかし北からの風が、それを押した。

炎が、林の枯れ葉を伝って広がった。

速かった。乾いた秋の山は、よく燃えた…


橙色の光が、山全体を染め始めた。


俺の横で、トーマスが息を飲んだ。

「……殿下。」


炎が広がった。

野営地の中心に向かって、火の壁が動いた。

叫び声が遠く聞こえた。しかし、反応は遅かった。

睡眠薬の効果か、あるいは突然の事態への混乱か。

逃げる方向を間違えた者が、炎の中に飲み込まれていく気配があった。


ミア姉様が、物見台の端で俺の横に立っていた。

その顔は見なかった。見る必要がなかった。


「ルーク…」

ミア姉様が静かに言った。

「……これも、戦争ですか。」


俺は答えた。

「そうです。ミア姉様、」


ミア姉様は何も言わなかった。

ただ、俺の横に立ち続けた。


炎は1時間以上燃え続けた。


夜明け前、フリッツが戻ってきた。

着崩れは一切なかった。執事服のまま。

「報告いたします。野営地の兵の大半が、火に巻かれました。逃亡した者は推定で二割前後…。オスカー殿下ご本人は、野営地の中心部にはおられなかったようです。旗印の天幕が本隊の中心から離れた場所にあり、そちらからの逃亡と見られます。」


「逃げた方向は?」


「北西です。近隣の別の勢力圏に向かっていると推定されます。」


俺は頷いた。


「わかりました。フリッツ、お疲れ様でした。それから….ありがとうございました。」


フリッツが深く礼をした。

「勿体ないお言葉にございます…」


夜明けの空が、東の方から白くなり始めていた。

シオン兄上が戻るまで、あと1日。

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