白旗と暗闇 先発隊殲滅(前)
「故に善く戦う者は、人を致して人に致されず」
ーー孫子ーー
ゆえに、よく戦う者は敵を自分の思うとおりに動かし、敵に動かされることはない。
2日後の夜。
北側の物見から報告が来た。
「先発隊、確認。北の街道を南下中。松明の数から、300名前後と推定」
俺は全員に伝えた。
「各自、配置についてください。動くのは俺の合図からです!」
弓組七名が、目隠しを外した。
二日間、光を遮断していた目が、夜の闇の中で開かれた。
エリカが小声で言った。
「……見える。暗いけど、輪郭がわかる。」
ヴィクターが静かに頷いた。
「想定通りだ。これで十分戦える。」
弓組は東西の壁上に静かに上がった。
足音を消して、位置についた。
矢筒を横に置いた。手が、弓の弦を確かめた。
槍組も、それぞれの配置についていた。
一年生・二年生の者たち、教師陣、フリッツの部下が、北・南・東・西の校舎屋根と高所に散らばっていた。
各自の足元に、投げ槍が積まれていた。
目隠しを外したばかりの目が、暗闇の中で静かに慣らされていた。
何も見えなくていい。密集した塊に向けて、真下に落とすだけだ。
広場の松明が全て点っていた。
学院が、いつも通りの夜に見えるように。
先発隊が学院の正門前に到達したのは、夜の8時過ぎだった。
俺は正門の内側に立った。
白い布を手に持っていた。
背後にエドが立っていた。
大門がゆっくり開いた。
先発隊の指揮官が馬に乗って前に出てきた。
30代前後の男だった。甲冑を着て、剣を腰に帯びていた。
その視線が、俺を見た。
子供が、白旗を持って立っていた。
指揮官の顔に、一瞬だけ困惑が走った。
「……お前が、ここの責任者か」
俺は頷いた。
「そうです。第5王子ルーク・フォン・ヴァルトハウゼンです。守備の者が少なく、正面からは抗えません。降伏します。学院の中をご案内します。」
指揮官がもう一度俺を見た。
7歳の子供、白旗、降伏の言葉。
その指揮官が、後ろを振り返った。
副官と何か短く話した。
それから、俺を見た。
「……この事実を、本隊に報告する。伝令を出す。その後で中に入る。」
俺は頷いた。
「わかりました。お待ちします。」
伝令が出た。
俺はその伝令が馬で北へ走るのを、正門の陰から確認した
「本隊への報告、完了しました」という声が小さく届いた。
ヴィクターの部下が、伝令の出発を確認した合図だった。
俺は白旗を握ったまま、指揮官に向かって言った。
「では、ご案内します。中央広場まで全員でどうぞ」




